アスタロトの探究 4
アスタロトが地上に降りると、すぐさま形態が八つ首の大蛇へと変化した。
全身を赤い鱗が覆い、タトゥーのような黒い紋様が現れる。その双眸は、濃いアメジスト色であった。
八岐大蛇モードを発動するのに、アスタロトは寿命を二百年、消費していた。意識が八つに分散されるので、全方位を囲まれた時に敵襲への対処が容易になる。
アスタロトもベヒーモスと同じく、五メートル級の大蛇の姿を取った。これ以上、体長を大きくすれば、多大な魔力を消費するので、この形態に留まった。
ベヒーモスは八岐大蛇を警戒してか、安易に突進を仕掛けたりしない。
おもむろに、八つ首が鎌首をもたげ、ベヒーモスへと近づいて行く。
凶暴で、縄張り意識の強いベヒーモスは、野生の勘の警鐘を無視して、八岐大蛇へ突進を試みる。
すると、八つ首から一斉に紫色の火炎が吐き出された。
紫炎はベヒーモスのあらゆる部位に絡みつく。
次の瞬間――ベヒーモスが大量に吐血し、横倒しとなった。
八岐の火炎には、実は猛毒が含まれていたのだ。
大抵の毒や炎には耐性のあるベヒーモスだが、八岐の毒はあらゆる毒蛇の毒をブレンドした最強の猛毒であった。
ほどなくして絶命したベヒーモスを、八岐大蛇はかぶりついて咀嚼する。
倒したベヒーモスから魔力を摂取することで、アスタロトの魔力は満杯となった。
アスタロトは、元の姿に戻ると黙考した。
「この猛毒、ベールゼブブと戦う時に使えるか!?」
かつては、愛し合っていたはずの相手。
だが、ベールゼブブがアスタロトを排除しようとした時に、彼らは互いが互いを利用しているだけの関係に気づいた。
アスタロトが魔界の帝王となるのに、蝿の王は邪魔になる。王配という制度もあるが、ベールゼブブの野心は、それでは満足すまい。
さらに、魔界の地下に位置する暗黒界の存在もある。サタンに従わない勢力を、アスタロトは牛耳るという野望があった。
が、イレギュラーな魔神たちを掌握するには、一筋縄ではいかないだろう。
ベルゼビュートは、暗黒界攻略の手駒として使うつもりだ。
人間界の英雄ナポレオンの魂を手にしたアスタロトの野望は、己れさえも焼きつくさんばかりであった。




