アブディエルの野望
天界・黄金宮殿の横手にあるエリュシオンの園に、一人の熾天使が佇んでいた。
熾天使副長アブディエルである。
彼はメタトロンと対を成す存在で、ルシフェルが神に対して反乱を起こした時も、天界の行く末を憂いて、真っ先に謀反の報告をした人物でもある。
中性的な顔立ちで、時には女性に間違えられることもある。
短くした黄金色の髪と、グリーンの瞳が特徴の金の鎧に身を包んだ六枚羽根の熾天使。
それが彼であり、名前には神の下僕という意味があった。
長き神の不在と、メタトロンの失踪はアブディエルの心に影を落としていた。一部の天使たちの噂では、堕天して邪悪なドラゴンへと変貌を遂げてしまったとの話もある。
なぜに、神はアブディエルをないがしろにするのか。
なぜに、メタトロンは行方が知れぬのか。
ミカエルを始めとする七大天使らも、宛にはならない。
この天界には、新たな指導者が必要である。そう、例えばアブディエルのような。
天使の最高位である熾天使を率いる、メタトロンに次ぐ人物で、次代の神となる資格は充分にある。
それに、羽根は六枚もある。
天使にとって、羽根の数は権力の象徴だ。一説には、その羽根には惑星一つを滅ぼす能力があると言う。だが、その能力を機動するには幾つものプロテクトがある。
そう、天使の双翼には破壊と創造の能力が秘められているのだ。




