炎帝竜のピアス 37
クリムゾンの野郎が、必死にもがき暴れる。が、俺様は喉笛を締め付けて離さない。ここが正念場だ。このタイミングを逃したら、奴には勝てない気がする。
「死にたくなければ、俺様に服従しろ!」
クリムゾンめ、アスタロトに忠義を誓っているのか。馬鹿らしい。あの女狐は、利用価値が無くなると、すぐ廃棄したり、殺したりするのだぞ。
ぐったりとなるファイヤードレイクに、俺様は最後通告をする。
「従わない使い魔に価値などない。俺様の物にならぬのなら、この場で野垂れ死ね!」
ゴキリと鈍い音がし、俺様はクリムゾンの首の骨を折った。
「ま、待て! 分かった……ベルゼビュート殿の使い魔となる」
悔しげな表情を浮かべるクリムゾン。
お互い、満身創痍だが――ついに、俺様はクリムゾンという炎竜の帝王を手に入れた。
「良かろう。では、貴様の真の名を教えろ!」
完全に奴を手中に収めるには、真の名が必要だ。この名を唱えられると、相手には隷属をせざる得ない。
「……ギャルガ。それが我の真の名だ」
「良かろう。ギャルガよ、俺様の耳を飾るピアスとなれ!」
人型となったベルゼビュートの左耳に、生体を高圧縮された、クリムゾンという紅いピアスがつけられた。
「へっ、ピアス一つ手に入れるのに、こんなに苦労するとは思ってなかったぜ……」
そのまま、ベルゼビュートは魔力枯渇が原因で倒れ伏した。
レオナールとオセは、傷ついた主の元に駆け寄り、ベルゼビュートが寝息を立てていることに安堵した。
一部始終を使い魔の蛇の目を通して見ていたアスタロトは、ニヤリとした笑みを浮かべる。
「クリムゾンは貸しておいてやる。我が愚息ベルゼビュートよ。真の名は、一つではない個体も存在するのだよ。貴様は常に、私の手のひらの上で踊るのがお似合いだ」
アスタロトは血のワインを愉しみながら、哄笑するのだった。




