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少年バエル 9
ありえない、とギュゾインは思った。
エアリダの放った千風刃は、空間さえ斬り裂く必殺の一撃である。触れた物体は、生物であれば、瞬時に肉塊と化す強力な攻撃だ。
だが、風刃のことごとくが小さな球体に吸い込まれ、無力化されている。
これでは、数百年の寿命を代価に、闇精霊を召喚した意味がない。
「無駄だよ。そんな、そよ風じゃ、僕に傷一つつけられない。この僕――バエルにはね」
バエルとは、東を統べる王にして、序列1位の魔界の絶対強者の異名ではなかったか。
ギュゾインは自身がケンカを売ったのは、魔神バールに連なる者だったと理解した。
ナンバーズに一時期、籍を置いていたこともあるが、ギュゾインは脱落していた。
精霊召喚のギフトは、戦いにおいては中途半端なスキルでしかなかった。ゆえに、下級悪魔らを引き連れて下位のナンバーズらを攻略するつもりで万魔殿を徘徊していたのだが、運悪くバエルと相対してしまった。
一旦、退却という考えがギュゾインによぎった。
次の瞬間、ダーク・エアリアルの絶叫が辺りに轟いた。




