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野心家 アスタロト
私は、こんなにも野心家であっただろうか?
いや、違う。
少なくとも、人間界の英雄ナポレオン・ボナパルトと出会ってからだ。
奴は野心に溢れ、努力を惜しまない人物だった。
一介の砲兵将校から、イタリア方面軍司令官を経て、一夜にしてフランス皇帝へと上り詰めた傑物だ。
実は魔界には、一定の法則が存在する。
悪魔と召喚者は、互いに引き合うのだ。
私は、ナポレオンの才気に惹かれ、時には未亡人ジョゼフィーヌとなり、時には奴の騎馬マレンゴとなり支援した。
ナポレオンは栄光を手に入れたが、同時に破滅への道のりにも踏み出していた。
愚かな人間どもよ。
悪魔との契約は、いつでも栄光と破滅と死と相場が決まっているのに。
さて、久しぶりにナポレオンの血を寝かせたワインでも、いただくとするか。
奴の野心が染みたワインは極上なのだ。
次の契約者も、そうであることを祈って乾杯するとしよう。




