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幕間――奪いし者、奪われし者 9
大切なものを奪われたことがあるか。
俺にはある。
大切な大切な親友を、家族に――母に奪われた。
大義名分は、俺に英才教育を施すという理由が分からないものだった。
そんなくだらないことのために、なぜ親友を亡くさなければならなかったのか。
それからの俺は、母と呼ぶことはなかった。
俺はただ、仲間といつまでもつるんでいられたら、それで良かった。
だのに、アスタロトの野郎はすべてを奪い去っていきやがった。
あの日から、俺の心の真ん中にはでっかい穴が開いている。
埋めつくせない穴が。
親友を失くして、数年が過ぎた頃、部下ができた。
アスタロトのことがあるから、親友を作るのは避けた。もう、大切なものを奪われたくない。
それには俺が魔界の帝王になって、争いを禁じれば良い。
争いを失くすために、争わなくてはならない。そんな矛盾が俺を苦しめる。
強くなりたい!
誰からも、理不尽に大切なものを奪われないために!
その時の俺は、気づいてなかった。
自身が、アスタロトのように誰かの大切な誰かを奪っていることに。




