サダルメリク
いつから、神として存在していたのか。
いつから、時間という概念を司る者となったのか。
分からない。
神として活動する度に、記憶を失っている気がする。
クロノスと名乗る前には、ヒッタイト帝国で嵐の神・クォザフと呼ばれていた。
そこで、風の魔物・パズズと戦った。
奴は、獅子の頭部を持つ人型の邪神で、背には猛禽の翼と、サソリの尾を有した疫病を司る存在だった。
パズズとの戦いで、精神生命体となった私は彷徨い続け、やっと自身を消滅させてくれそうな存在を見出した。
それが、ルー・フーリンである。
かの王の転生体であり、ゲッシュという誓約の呪いによって時空に干渉できる存在――それが、彼だ。
言うなれば、特殊特異点。
運命の三女神、ラキシス・アトロポス・クローソーさえ、彼の運命を知る由はない。
自身の行動が、己れの運命を創る特殊で特異な生きるシュレディンガーの黒猫。
我ら、高次元の神々はその特異点をサダルメリク――つまり、王者の幸運な星と呼ぶ。
特異点の描く未来とは、いかような物か。
今はまだ、目覚めてはいないが自身が時間を巻き戻すことのできる存在だと知ったら、どうなるだろうか?
そして、サダルメリクこそが邪神の軍勢に対抗できる唯一の手段であると知ったら。
破壊も創成も、猫の姿をした彼の肉球の上で、踊らされるだけなのかも知れない。




