幕間――鬼句一文字 7
「そこで、だ。アスタロト卿に、お願いがある」
「何だ?」
「某の宿敵であるグフと決着を着けるまで、配下になる猶予をいただきたい」
サブナックが言っていた妖精界の、レッドキャップのことか?
俄には信じがたい話だ。
たかが、ゴブリンの上位種では無さそうだ。特殊個体にしても、強すぎる。
話を訊く限り、魔獣並みの強さを有しているらしい。実際、この目で確かめぬことには分からぬが、サブナックが嘘の報告をする必要性が無い以上、本当のことなのだろう。
「好きにするが良い。ニ、三百年ほどなら待ってやろう」
というのは嘘だがな。
パズズの奴めがうるさいし、出来得る限り早めてもらおう。今は、サブナックに配下になるという言質を取っただけで、良しとしよう。
「卿の寛大な心に感謝する」
感謝など、されても困る。
サブナックには、邪神の器として犠牲になってもらわねばな。
「感謝など、要らぬさ。私は優秀な配下を得、貴様は希代の鍛冶師を救ったまで。時にサブナック、魔王衆になる気は無いか?」
私はサブナックを魔王衆へと、スカウトしてみた。
邪神の器にするも良し、魔王衆の一人にして私の従者にしても良い。
選択肢は多いに越したことは無い。
常により良き方向に、運命をコントロールする。
この広大な魔界を牛耳るには、上手く立ち回らないといけないだろう。
それにサブナックは邪神の容れ物としても、戦士としても優秀だ。
一介の悪魔と魔王衆とでは、実力の違いが天と地ほどの開きがある。
その格上の魔王衆に向かって来る気概は、得がたい資質であるし、好ましいものだ。
「某の魔力総量は五千。魔王衆クラスともなれば、最低で十万から百万ほどの魔力を有しているだろう。某の魔力量では、アスタロト卿の足元にも及ぶまい」
「魔力が少ないなら、足せば良い」
「そんな簡単な話ではない。後天的に魔力を増やすのが難しいことは卿でも知っているだろう」
「もちろん、リスクは多少あるし、下準備は要るさ。だが、爆発的に魔力量を増やすことは可能だ。考えておくのだな。剣だけが力ではない。魔法や魔術もまた力だ。他者を圧倒する力、欲しくはないか?」




