幕間――鬼句一文字 3
「これが総司の菊一文字だと!?」
獅子頭の悪魔は、どうやら違いに気づいたようだ。
アスタロトの野郎に――いや、女なら女郎か?
ともかく、刀の研ぎを頼まれた。
オレことイルマリネンの、最後の仕事に相応しい刀剣を打ち直した。
「悪いが、打ち直させてもらった。研ぎだけ、という話だったが、この刀はまだ、お前さんと戦いたいようだ」
「どういうことだ。イルマリネン殿!?」
獅子頭の――確か、サブナックと呼ぶ悪魔だったかがオレに訊いてきた。
「このオレには、刀剣の声が聴こえるのよ。この刀の前の持ち主の思いや未練を感じ取れる能力が、オレにはあるのさ。その心の声が、オレに刀を打たせた」
「そうか。若くして亡くなった総司の無念が、貴殿の心を動かしたのだな」
「病気の身で、自由に剣を振るえぬ悔しさがひしひしと伝わって来た。コイツぁ、死んだのか?」
「労咳という肺の病で、亡くなった。さぞかし、無念であったことだろう。剣の天才だった……日ノ本の国では、刀と呼ぶらしいが」
「そうか。オレの最後の仕事に相応しい、最高の出来だ。存分に、振るってくれ」
サブナックは、オレと共に牢の中にいる。かなり広いスペースがあるが、虜囚の身ではありがたみすら湧かないが。
「最後の仕事とは!?」
「アスタロトの野郎、その刀でオレを試し斬りするはずだ。そうだろ、紅の女帝!」
いつのまにか、牢内に出現していたアスタロトの野郎に向けて、オレは言い放った。




