幕間――邪神パズズ
アスタロトは魔界の地下に位置する、暗黒界クリフォトに単身で訪れていた。
そこは広大な荒れ野で、上空には魔力を帯びた紫の雷雲が立ち込める場所であった。樹々は枯れ果て、静寂のみが支配する――そこに在ったのは、打ち捨てられた古代の神殿だった。
半壊した神殿の奥へと、美貌の半陰陽は足を踏み入れる。
空っぽの玉座の脇には、年老いた翼ある獅子が寝そべっていた。
「ほ、ようやくお出ましか。待ちくたびれたぞい」
「そういうな。私とて、忙しいのだ。自身の息子に命を狙われるくらいにはな」
「して、首尾はどうだの!?」
有翼の獅子グリュプスが訊いた。
「後は、サブナックだけだな。グリフォンとギルタブリルは貴様に預けておいたろう?」
グリフォンは鷲頭に獅子の体躯を持つ魔獣で、ギルタブリルはサソリと人間が融合した半人半魔である。
「まだ、なのか? 早く、サブナックの身体を寄越せ!」
「そう、急くな。仮に今、サブナックの身体を手に入れたとて、本体の魔力量が少なければ、邪神の容れ物として機能しない。分かり切ったことだろう?」
「邪神パズズの復活には、まだまだ掛かるということかの?」
「そうだ。急いては事を仕損じるというではないか。完全復活を目論むのならば、慎重にことを運ぶ他あるまい」
「待ち遠しいのう。サブナックよ、早く、わしの物となれ」
「案ずるな。万事任せておけ、計画は順調だ」
アスタロトがニヤリと笑う。
サブナックのような、単純な武人は操りやすい。すべては、紅の女帝の掌の上で踊る運命にある。
彼女の切り札は、ワイルドカードなのだ。
いかようにも化けることができるだろう。




