幕間――メタトロンの真実 13
ケルベロスが如き、三つ首を有する暗黒竜クロウ・クルワッハ。
それは、かつての同朋の成れの果て。
濁った赤い眼は狂気に彩られており、知性の欠片も見受けられない。
私も奴のように、狂ってしまうのだろうか?
ドラゴンへと変貌し、ティル・ナ・ノーグに仇なす存在となってしまうのだろうか?
軍神と呼ばれた、この私がなんて様だ。
天界最強の称号である、メタトロンの名に相応しくない。
私ならば、次代の神になれるという自負があった。
だが、地球の記憶を受け継ぐ行為は、熾天使の精神さえも侵食されるほど、高難度のクエストだった。
人類の一人一人の生涯を追体験するのだ。
耐えられるわけがない。
ある時は、難病を抱えた少年。
ある時は、家族に裏切られ毒殺された大富豪。
また、ある時はカマキリに捕食される蝶という具合に、目まぐるしい生の輪廻の中で、もがき続けるが、己れの力で脱出できるわけではないのだ。
いつ果てるとも知らぬ、永劫の苦しみ。
いっそ、誰かがこの生を終わらせてくれたらと思う。
高次元の神と名乗る管理者クロノス。
だが、それは真実なのだろうか?
もしや、彼こそがサタンその人なのではなかろうか?
神の敵対者サタン――だが、彼が悪だと誰が知りえようか?
かつては、天使の最高位タウス=メレクだと訊いた。特別な天使だけが有する孔雀の羽根。その彼は、なぜ堕天したのだろうか?
地の底に幽閉された彼らは、自分たちの王国を築いた。堕天した恨みをはらさんと、悪魔らは天界へと反撃を仕掛けるも、現状は膠着状態のままだ。
その状況を打破しようと、私は次代の神になることを決めた。
彼らを滅ぼすのも、生かすのも神である者の心次第。
とにかく私は、悪魔と共存は不可能だと思っていた。
ならば、彼らだけの王国を黙認してやれば良いのではないだろうか?
それとも、悪魔らは天使を殺し尽くすまで止まることはないのだろうか?
分からない。
賢者と呼ばれたソロモン王ならば、あるいは――
答えが出ない。
暗黒竜と対峙しているのを忘れたわけではない。
すべては、クロノスが見てる夢を見させられている可能性もあるだろう。
それとも、今現在クロウ・クルワッハの術中にはまっているのだろうか?




