幕間――鬼句一文字 2
万魔殿の地下にある、アスタロト卿に与えられた空間。
そこに、鍛冶師イルマリネンは居た。
まるで、岩で出来た監獄か何かのようだ。
イルマリネンはボサボサで、くすんだ銀色の長髪の持ち主だった。逃亡できぬよう、両足の健が切られている。アスタロト卿の仕業だ。何ゆえ、彼を幽閉しているのか分からぬが、某の出る幕ではないのは明らかだ。
とは言え、名だたる鍛冶師にこの仕打ちは無かろうと思う。
卿の配下に着くと言えば、イルマリネン殿の待遇も良くなるだろうか?
アスタロト卿のことは、尊敬している。
わずか数百年で、魔界の四大実力者と呼ばれるまでになった傑物で、美貌の半陰陽。
使い魔は、炎帝竜クリムゾン。
そして、スカル・キャッスルの城主。
それが、某の知るアスタロト卿のすべてだ。
剣の道を極めるためにだけ生きてきた某が、誰かに仕えるなどと考えたことはない。
剣とは、人を殺すためだけに進化してきた武器だ。なぜ、自身がこうまで剣に拘るのか分からない。
天界で、カイイリエルに負けを喫した時から、某の中の時間は止まっている。あの時、奴に勝てていたなら、間違いなく裁天使となって、軍神メタトロンの横で、剣を振るっていたはずである。
天界に対する未練はないが、カイイリエルとメタトロンの二人とは、天然理心流の剣術で、打ち負かしたいと思う。
彼らと渡り合うには、業物が必要だ。
例え、いかなる代償を支払おうとも、彼奴らに勝てるのであれば、構わない。よしんば、代償が某の生命であろうとも覚悟はできている。
負けて、生き恥をさらすくらいなら玉砕覚悟で死合へと挑もう。
若くして亡くなった友、沖田総司との約束もある。
天然理心流で、強敵と戦って勝つ。
それが総司への、手向けになろう。
まずは、ティル・ナ・ノーグのグフに借りを返さなければなるまい。
再び、相まみえる日が待ち遠しい。
今度は、折れぬ魔剣で奴を倒す!
待っているが良い、妖精界のレッドキャップよ!




