幕間――大悪魔アスタロト
永遠の美を保つには、処女の血だけでは不十分だと分かった。
血液を満たしたバスタブに裸身を沈めても、肌が息を吹き返すのは一時だけ。
悪魔崇拝者の叔父に、悪魔を呼び出す呪文を教えてもらった。
ヨーロッパを拠点とする大悪魔が存在するという。
何者でも良い。
私に永遠の若さと、傾国の美貌を与えてくれるのなら、喜んで悪魔と手を組もう。
あるいは、この身体で籠絡しても良い。
だが、老いには勝てぬ。
私は、すでに44歳で――身体も美貌も衰えて行くだけ……そんなことは、耐えられない。
幸い、私は高位貴族のバートリ伯爵夫人という肩書きがある。農家の娘らをさらい、悪魔の供物とする。下男に始末させた遺体も、百からは数えていない。
死んだ娘どもも、私の美貌を保つために亡くなったのだから、本望だろう。
今回は、特別な魔法陣を用意した。
村娘や女中らの遺体で、魔法陣を描いたのだ。いずれも裸である。
私は、血まみれのバスタブに浸かりながらワインを嗜む。
これで、大悪魔を召喚する準備は整った。
私は、手首をナイフで傷つけ、悪魔を召喚する呪文を唱えた。
ああ、美しき悪魔よ、来たれ!
我が名は、エリザベート・バートリ。
血まみれの伯爵夫人なり。




