幕間――折れぬ魔剣
グフとの戦闘に負けたサブナックは、魔界の万魔殿にある一室に寝かされていた。
送還の魔法陣をくぐり抜けたペイルカイザーは、主の介抱を、一匹の悪魔に託した。
見た目は、ちょっとオシャレなゴブリンだ。
ギョロリとした目と、鉤鼻が特徴の悪魔ビフロンズである。
「ううむ……ここは!?」
朦朧とする頭を振りながら、サブナックは簡素なベッドから上半身を起こした。
ここはビフロンズに与えられた一角である。
かつて、ビフロンズは下級悪魔の中でも最弱の一人で、他の悪魔になぶり殺しにあっていた彼を救ったのがサブナックであった。以来、ビフロンズは獅子に恩を感じ、刀や魔剣などを都合する間柄になった。
「キヒッ、旦那――豪快に負けなすったね」
「そうか……私は、グフに負けたのだな。あそこで、剣が折れていなければ勝機もあっただろうに」
「キヒヒッ、あるぜ。あるぜ。旦那――折れない剣がっ!」
「それは、どこにある!!」
「宝物庫に眠る、魔剣アラストールがそうさ」
「魔剣アラストール、だと!? まさか、狂乱の魔剣アラストールかっ!!」
驚愕するサブナック。
それもそのはず、狂乱の魔剣はサタンに歯向かった悪魔アラストールの魂を封じ込めた業物なのだ。
悪魔アラストール――数万の同胞を虐殺し、サタンを襲撃した暗殺者の悪魔である。
退屈していたアラストールは、数万の悪魔を虐殺した。が、彼の闘争心は満たされず、魔界の絶対者へと牙を剝いた。
が、ロイヤルガードであるエリゴールとベリスに取り押さえられ、拷問の末、魔剣に封印されるに至った。
悠久の時を生きる悪魔の敵は、退屈である。
だから、アラストールは数万の悪魔を虐殺し、サタンにケンカを売った。
永久に近い時を生きる悪魔は、それぞれの目的や趣味を見つけ、それを生き甲斐とする。
マモンは希少な宝石を集め、弟のアンドラスは生首を収集する。
ベルゼビュートやバールゼフォンは、魔界の帝王の座を狙い、アスタロトはギフトを研究し進化させる。
その歪んだ欲望は、魔界に戦乱をもたらすのだった。




