妖精姫のケーリュケイオン 2
「気でも触れたか? 無理もない。通常の人間ならば耐えられぬ事態であるからな」
「いたって、正気だ。早くしろ、ルー。結界がもたん――」
「ええい、ままよ!」
ルーは耳の中に隠し持っていたゲイ・ボルグを通常のサイズに戻し、京子に向け、放った!
魔槍は狙い過たず、京子の腹部を刺し貫く。
そして、光が爆ぜた。
目もくらむような閃光が走り、居合わせた異界の住人らの視界を奪う。
――光の霧が晴れた時、そこにいたのはシルバー・ブロンドのハイエルフの女だった。瞳の色はエメラルドであり、エルフ族特有の尖った耳を有していた。服装もいつのまにかビキニアーマーへと変わっている。その右手には魔槍ゲイ・ボルグが握られていた。
「久しいのう、ゲイ・ボルグ――私に逢いたかったか?」
美貌のハイエルフは魔槍に語りかける。
その光景に異界の住人一同は、驚愕となった。それもそのはず、女子高生の京子が突如としてハイエルフに変身したのだから。マスクを被ったライダーかよっ、と黒猫剣士は激しくツッコミたい衝動をこらえた。
(やはり、京子の正体は俺の母であるエディンなのか? しかし、それでは俺の姿が猫妖精であるケット・シーである説明がつかない。ハイエルフ同士の子はハイエルフにしかならない。よしんば違う姿で生まれるにしても、エルフという見方が一般的だろう。それとも、まだ何か俺の知らない謎が残されているのか? この俺の灰色の脳細胞をもってしても解明できないエニグマがあろうとはな――)
「そこな紳士諸君、私が十秒だけリンドブルムを足止めする。その間に各々の最大の技を叩き込め!」
「やるしかないか。だが、十秒とはまた短すぎるのではないか?」
渋々、カイイリエルも参戦の意を示す。
そう、リンドブルムを倒さないことには彼を送り出してくれた大天使長ミカエルに対して、顔向けできないのだ。
「赤き暴君リンドブルム相手にこれだけの時間を稼げるのは、妖精界広しといえど、私と夫たるクー・フーリンのみだろう。諸君、時が移る。己れの最強の技をリンドブルムに叩き込め!」
カイイリエルが長槍を一旦消し、三種のエネルギー体を創り出す作業に入る。
ピグマリオン・マジック――大天使クラスの天使ならば、誰もが有している能力であり、大気などのエネルギーから剣や槍などを創ることができる。今、カイイリエルはその圧縮したエネルギー体を自身の持つ最大の攻撃と化す準備に入っていた。
ミカエルの命を帯び、単身ティル・ナ・ノーグへと赴いたカイイリエルは裁天使として、リンドブルムを葬るために下界へ降りた。
裁天使とは悪魔や堕天使に裁きの鉄槌を下す、天界における特殊な役職である。対悪魔に特化した戦闘的な天使であると言えよう。中でもカイイリエルは天界の重鎮である現在、行方不明中の熾天使長メタトロンに次ぐ実力者であった。
鎧には咆哮する紅獅子が描かれており、それが裁天使の証左だった。
何か執筆機能が使えない。何でだ?
次話投稿でルビや機能が使えないとかあります?




