幕間――グフとファリサール
ティル・ナ・ノーグの上空には、精霊たちが住む異界が存在する。
実体をもたないエネルギーの集合体のような精霊だが、王であるエンリュミオンだけは人の姿を取ることができた。
すべての精霊と妖精の祖といっても差し支えないだろう。
大気のエネルギーから剣を創り出す天使は、それをエンリュミオン・ソードと呼ぶ。
彼ら精霊は、アヴァロンと呼ぶ世界に住み、暮らしている。
「ファリサール! ファリサールは、おらぬか?」
精霊王の声が、アヴァロン全域に響き渡る。
さほど、待たずに件のファリサールが姿を現す。
風の精霊女王ファリサールは、腰まで届く豪奢なエメラルドグリーンの長髪と、サファイアの瞳を持つ、白いドレスをまとった美女であった。
「何事ですか、お父様?」
「おお、我が愛しの五番目の娘、ファリサールよ。実は、グフに危険が迫っているのだ!」
グフは、ファリサールの異母姉弟に当たる。
精霊王エンリュミオンとグリフォン族の娘・グリンダとの子で、長・ガルフォンの孫だった。
「魔女グライアイの予言で、グフはレッドキャップに変貌してしまうらしい。そこでグフを守るために武器妖精となってくれる者を探して欲しいのだ!」
エンリュミオンはグフに、インテリジェンス・ウエポンをプレゼントしようとしていた。
グフが生まれてから、父親らしいことをしていない罪ほろぼしのためだ。
「では、私が武器妖精と、なりましょう」
「バカな! 武器妖精となったら、本来の人格すら失くしてしまうのだぞ!」
「構いません。出来の悪い弟の面倒を見るのは、良く出来た姉の務めですわ」
こうして、ファリサールことリサはインテリジェンス・ウエポンとなった。
出来が悪い、かわいい弟のために彼女は自身を捧げる覚悟を決め、精霊女王の座を降りた。
斧リサの風の精霊の加護は、ファリサール自身が武器妖精と化した副産物であった。




