炎帝竜のピアス 12
アスタロトが指をパチリと鳴らす。
すると、一匹の黒蛇がアドラメレクの口の中へ入り込んだ。
「や、止め……ろ!」
蛇は内側から侵入し、アドラメレクからある物を奪い、這い出て来る。
黒蛇は白い物体をアスタロトの左手に吐き出した。
そこには、一個の眼球の姿があった。
「ぎゃあああ!」
半狂乱になるアドラメレク。
アスタロトは優雅な仕草で、アドラメレクの右の眼球を噛み砕いた!
「お、おれの眼がっ!!」
「紅の女帝にケンカを売ったのだ。これくらいのことは予期してしかるべきだろう。私の好物は生物の目玉だ。もう片方の眼球を失くしたくなければ、私の軍門に下れ!」
アドラメレクには勝算があった。
何しろ、あの手この手で下級悪魔を二千ほど集め、アスタロトを襲撃させ、弱った所を叩くはずだったのだから。
だが、思いのほかブロケルが強く、一瞬にして雑兵数百名を消滅させられてしまった。
皮算用を悟った馬頭悪魔は一時撤退しようとしたが、エキドナに発見され、アスタロトのギフト〈ラプンツェル〉によって右の眼球を奪われ、噛み砕かれた。
すべては、紅の女帝の演出である。
目の前で相手の眼球を噛み砕くことによって、アスタロトへの絶対的な恐怖心を植え付けることに成功した。
「分かった……アスタロト卿の軍門に下る」
憔悴しきったアドラメレクが敗北を認め、紅の女帝は満足げな笑みを浮かべた。




