幕間――ルー・フーリンの誕生 4
影の国スカレイノから、麗子が魔法による転移で天幕の中に現れた。
床は血だらけで、その中心に喉を裂かれたルネが倒れており、エディンはひどく取り乱し、子供のように泣きじゃくっている。
「麗子っ! ルネが、ルネが死んでしまう。早く、回復魔法を……」
エディンは、麗子が多種多様な魔法を使えることを知っている。妖精の回復魔法キアンを教えたのは、彼女だ。出藍の誉れで、麗子の回復魔法はすでにエディンの技量を超えていた。
ロビアタールの指導で、高濃度の魔力を練られるようになった麗子こと魔女スカサハは、髪が紫色に変色しており、瞳にもその兆候が現れている。
漆黒の魔道師のローブが麗子を熟練の魔女に見せていたし、貫禄を感じさせた。魔法を行使することによって、麗子の中に自信が生まれていた。
状況が切迫していると感じた麗子は、即座にクリーンの魔法でエディンを取り巻く空間内を清潔にする。
ルネを近くにあったサイドテーブルに乗せ、回復魔法を行使する。
「キアン!」
回復魔法が効かない。
おそらく、もう死んでいる。
しかし、蘇生させることはできるかも知れない。
死者蘇生の呪文が存在するのだから。
だが、それは禁呪であり、今のスカサハの腕では無理であることが分かっている。
その上、死者蘇生呪文ラザロは下手をすると命を落とし、不死者の王リッチへと変貌する可能性もあった。代償は命であり、最愛の人を蘇らせようとしてリッチとなってしまった魔道師も、多数存在する。
痛々しいルネの喉の裂傷を、麗子は赤いペイズリーのバンダナを巻いて、覆い隠した。
「ディアン・ケヒト!」
覚えたての回復最上位呪文を唱えるスカサハ。
ケット・シーの命を繋ぎ止めるために、やれることは何でもやる。
黒猫メイドを死なせない。
エディンが見守る中、回復魔法を重ねがけする麗子。
「うわぁぁぁっ!」
そんな中、エディンを陣痛が襲ったのだった!




