猫とピアス 3
バック・ベアと呼ばれた妖魔は、ティル・ナ・ノーグから人間界へ現出しようとしていた。
舌打ちした黒猫は京子に向け、風魔法を放つ。
「エアリアル」
攻撃魔法ではない。
戦闘になるであろう領域から、風魔法で強制的に離脱させたのだ。
一陣の風が京子を包み込み、後方へと避難させる。
初めて魔法を行使された京子は、ふおお!と感激しているようだ。
眼球の妖魔は、その蛇のような身体で、するりと工事現場に滑り出て、とぐろを巻く。
驚愕が黒猫王子を襲う。
(蛇体のバック・ベアだと!?)
通常種の奴ならば、眼球が巨大なだけの個体である。このバック・ベアはどうやら、特殊な進化を遂げた変異種である可能性が高い。
「我を知る貴様は誰だ!?」
妖魔がルーに問うた。
「俺の名はルー・フーリン。妖精王クー・フーリンが一子にして、お前のような、はぐれ妖魔を狩る者だ!」
蛇体のバック・ベアの胴体には、無数の口と眼球が散りばめられていた。その口と思しき器官から声が発せられているようだ。
「訊いたことがある。ケット・シーと妖精王の間に生まれた王子の話をな。なぜ、第一王位継承者でありながら、このような辺境にいるのだ。やはり、猫妖精とクー・フーリンの合いの子如きに務まる玉座ではないということか?」
嘲笑うようにバック・ベア。
おもむろにルーは首元のスカーフから銀の十字架を取り出す。それが黒猫の肉球の中で、一振りの剣へと変化する。彼の相棒、魔剣フラガラッハだ。
「俺の出自など、どうでも良いが父上を呼び捨てにするのは、気に食わんな。来い、バック・ベア――痛い目を見せてやる」
お待たせしました。
今日は休みなので、もう少し更新がんばります。




