炎帝竜のピアス 4
「貴様らも、ベルゼビュートの加勢に行くと良い」
アスタロトがレオナールとオセに向け、助言する。
「ビュート様なら、大丈夫よん。それよりも、アスタロト様を監視してないと怒られるわん」
と、レオナール。
「フッ、確かに普通の魔獣なら、奴でも飼いならせるだろうな。だが、相手は六千度の炎のブレスを吐く、クリムゾンだ。貴様らの主をバーベキューにしても、お釣りが来る火力を有したドラゴンに、敵うとでも?」
レオナールとオセは、押し黙る。
想像を絶する温度の炎を吐く炎帝竜に、果たしてベルゼビュートが勝てるのだろうか。
魔獣から取り込んだ能力に、炎に対抗できるスキルは無い。
ベルゼビュートは確かに魔界では、強者の部類に入る。だが、戦いには相性もあるし、イレギュラーな事態も起こり得る。力押しだけでは、勝てない相手も存在する。
それに、加勢に行っても足手まといになる可能性もある。
「行くぞ、レオナール」
オセは加勢に行く、覚悟を決めた。
ベルゼビュートの盾代わりには、なるだろう。
スキルを持たないオセは、相棒の双剣で、主を守ることしかできない。
レオナールは嘆息する。
「仕方ないわねぇ。今日のマニキュアは、クリムゾンの血でも塗ろうかしら? バトルするのは楽しいんだけど、爪が荒れるのが難点なのよねぇ」
悩むレオナールを置いて、オセはベルゼビュートの元へと急ぐ。
「ちょっと、待ちなさいよオセ! 抜けがけ禁止よぉ。ビュート様は、あたしが守るんだから!」
オセの跡を追う、レオナール。
山羊と豹が居なくなった牢内で、アスタロトはつぶやく。
「そろそろ、脱出するか。クリムゾンが良い時間稼ぎになるだろう」
突如、アスタロトの首が蛇のように伸び、枷に繋がれていた両手首を噛み千切った!
ボトリ、と耳障りな音を立てアスタロトの両手首が地に落ちる。
おびただしい血が流れるも、アスタロトのメデューサの髪が舐めとって行く。
「フン。手首なぞ、三日もあれば再生する」
アスタロトは両手首を再生できないわけではないが、膨大な魔力を使うので、自然治癒に任せている。常に命を狙われる彼女にとって、魔力を温存しておくのは、当然の措置だった。
バサッ!
一匹のワタリガラスと化したアスタロトは、魔界樹ルシドラシルの方角へと飛び立った。




