竜虎の下剋上 8
サタンの首を攻める好機が来た。
テュルフィングを振るう回数も、一万回に達する。バールゼフォンにも疲れの色が見え始めた。バルバトスの援護を期待するが、すでに九割以上の魔力を消耗している。時空系の魔法は、膨大な魔力を必要とする。唯一、伝説の魔女レサルカは自在に、時空を超えたと言う。
だが、畳み掛けるなら、この場面でしかない。
両者は、邪眼を使い、体内の魔力を暴走させる。長時間、この状態が続くとバーサーカーと化し、敵味方の判別が困難となる。
だが、やるしかない。
魔界を牛耳るのに、カリスマであるサタンを討伐することは絶対条件だ。
他の魔神らへの牽制にもなるし、悪魔は強者にしか従わない。
ならば、再生が止まっている今、全力を傾注するのみ!
ランペイジ・ネイルが一メートルはあろう心臓を切り刻む。爪の半数は欠け、激痛がベルゼビュートを襲う。それでも、金髪緑眼の悪魔は攻撃を止めない。
帝王になって万魔殿を支配する。それがベルゼビュートの夢だった。
夢へ王手をかけているのに、引くという選択肢はあり得ない。
成り上がるしかないのだ。
野望の炎の、赴くままベルゼビュートは魔爪を振るい続けるのだった。
ここが正念場と悟ったバールゼフォンが、テュルフィングに全魔力を注ぐ。
「〈ギロチン・ズブラ〉!」
魔力をまとったテュルフィングの斬撃が、狙い過たずサタンの首に炸裂する。これはサブナックの飛燕斬と同種の技だ。
帝王の顔が恐怖に歪む。
「バカな! 帝王である余が負けるなど……」
ゴトリ!
ついに、バールゼフォンの斬撃がサタンの首を落とした。
と、同時に巨大な心臓も急速に動きを止めて行く。
「見事ぞ、次代…の後継……者ども…よ」
そう言い残すと、サタンの眼から光が失われた。
二人は、ようやく帝王を攻略したのだった。




