猫とピアス 2
襲いかかる黒猫。
少女は反射的に目をつぶった。
黒猫は京子の右肩に飛び乗り、さらにジャンプした。
刹那――
ギャアアア!!!
耳をつんざく絶叫が辺りに轟いた。
驚いた京子が後ろの、やや上空に目を向けると、空間に大きな裂け目ができており、そこからうっすらと血を流した巨大な眼球が黒猫と、聖城学園の制服に身を包んだ少女を見下ろしていた。
デカい。
眼球のサイズは、およそ五メートルくらいだろうか。
それが紫色の煙と共に、徐々に這い出ようとしている。京子たちのいるスペースはかなり広い。正体を隠す気がなくなった黒猫ルー・フーリンは、すっと立ち上がり、京子に呆れた視線を向ける。
「こないだと良い、今日と良い、お前はよくよく妖魔に好かれる質らしいな」
やはり、京子は間違っていなかった。
この眼前の黒猫は人の言葉を喋るのだ。
「凝縮魔法リリパット解除。亜空間装備――」
黒猫が通常の猫サイズから、本来のケット・シーの姿へと戻る。と言っても、人間界の幼稚園児並みのサイズなのだが。
さらに、ルーは亜空間に収納してあるポンチョのように見える魔道師のマントを身にまとう。全属性魔法への耐性がある装備だ。
これは海竜リヴァイアサンの皮に、数種類のドラゴンの血が練り込められている、
ルー・フーリンの魔法の師、海神マナナン・マクリールの錬金術による自慢の一品である。さらに隠れた効果もあるらしいが、黒猫王子は試したことはない。
全属性魔法耐性というだけで、お釣りが来る。
身体がデカいだけの眼球の化物など、楽勝だ。
ギロリと目玉の化物が京子たちをねめ回す。
「ヒッ!」
京子は我知らず叫ぶ。
当然だ。
五メートルの大きさの眼球に、見つめられたらそうなるだろう。
そもそも、そんなシチュエーションなど人間界では、ありえない話なのだが。
「下級妖魔バック・ベア――人間界に何の用だ? それとも、また俺の爪で引き裂かれたいか?」




