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「聞いてよユエちゃん! (ガララッ)」
「……は? ちょ。ここ、どこだと思ってんのよ」
「お風呂」と僕は答えつつ、そのまま檜の浴槽にドボン。防水カバーをつけたタブレットを手に待つユエの隣に座る。(ウチの風呂は家族みんなが入れる位広い)
因みに今は夕食前。喫茶店から出た後珍しく真面目に『家の手伝い』をした訳だが……そんな話はどうでもいいよね。
「はぁ……で、聞いてよって、なにを?」
「幼馴染と狐が僕なんかには彼女が出来ないって、マスコットだからって言うんだ」
「大体合ってるじゃない」
「おのれ糞妹め。お兄ちゃんは本来なら既にモテモテになってる行動ばかりだろう?」
「普通それ口に出して言う? あざといを通りとして潔いわね。モテモテ、って目標なら鋏は既に達成してるでしょ」
「そりゃあ僕は〈神様〉だからね、信者は多いさ。ちがくてっ、僕は女の子と二人で御飯行ったり遊んだりお風呂入ったり寝たりしたいの!」
「普段からしてる事でしょ」
「確かに」
説明が難しいので諦め、
「それでユエちゃんはさっきからタブレットで何してんの?」
「ん? 学校の仕事とか」
「大変だね〈生徒会長〉様は」
「茶化さないでよ。ま、今はゲームしてるんだけど」
と彼女が見せてくれた画面には、イケメン男子が海パン一丁でモリと海産物を手に爽やかな笑顔を向けていた。
「まーた乙女ゲーか、好きだねー。僕もゲームみたいにハーレムルートに突入したいよ」
「乙女ゲーにハーレムルートってあるのかしら……どちらにしろ、日本じゃあ渋い顔されるだろうけども」
「全く……僕の『お姫様達』はどうすれば『昔みたいに』振り向いてくれるのか」
「昔って何よ」
「こっちの話だよ」
と僕が誤魔化そうとした、その時、
『ガラリ!』と勢い良く風呂の戸が開いて、
「話は聞かせて貰ったよぉツル君っ、その願い、叶えたげるぅ!」
「今度ユエちゃんもイナリんちに泊まり行こうよ、カサネも含めて」
「そうね」
「無視しないでよー!」
唐突に現れた――漫画みたいな白銀色の長髪と、スレンダーでありつつもバインバイン揺れる母性を持つそんなおっとり口調の――おっとり顔お姉さん。
「何だよツムグ、僕は今妹とのいちゃいちゃで忙しいんだが?」
「私ともいちゃいちゃしてよぉ、お姉ちゃんだよぉ? あ、お邪魔しまぁす」
「あ、こらっ、湯船浸かる前に身体洗えよっ、きちゃない!」
「お姉ちゃんはきちゃなくないもぉん」
「鋏も洗ってなかったでしょ」
「お兄ちゃんはきちゃなくないもぉん」
はたから見れば、水入らずな姉兄妹の裸の付き合い。はたから見られたくないけど。水に入ってるけど。
「よいしょと。ふふ、ツル君は相変わらずなほっそりだねぇ。女の子と変わらなぁい」
「こらツムグっ、僕はぬいぐるみじゃないぞっ、ムギュムギュ抱き締めるなっ」
「ふふー、かぁいいー。久し振りに今夜は一緒にねんねしよぉ?」
「はぁ。で、ツムグ、さっきの『鋏の願いを叶える』ってどういう意味?」
「この弟妹はお姉ちゃんを呼び捨てしてからにぃ……えっとね、遂に完成したんだよぉ。――【トライデント】がさぁ」
「「と、トライデントが……!?」」
五色ツムグ――五色家の長女である彼女は、世間では名の知れた量子力学だか物理学の研究者? 発明家? である(らしい)。
日本の大学では『足りない』とすぐ海外の一流大学に行き、その海外でも『もうここで得る物は無い』と一週間そこらで帰って来た変わり者。
その自由奔放な生き様は宛ら悪の科学者のようであるが、まさにその通りなわけで……。
「所でユエちゃん、トライデントってなんだっけ? 歯磨き粉?」
「それはリカルデントでしょ。なんか、神話に出て来た三又の矛と同じ名前だけど」
「二人ともお姉ちゃんに興味無さスギィ。ふふ……お風呂上がってご飯食べたらお姉ちゃんのラボに来てみてぇ」
「「めんどいなぁ」」
ユエと二人で文句を垂れつつも――夕食後、姉の研究室の前へ。その建物は、母屋から少し離れた所に姉が勝手に(自腹で)建てた物だ。
「全く、ツムグったら好き勝手やりたい放題で……ねぇユエちゃん?」
「似た者姉兄だと思うけど?」
「こうまでして『神に近づきたい』とか……【凡人】の考える事はさっぱりだ」
「……大体同意出来るけどアレが『ああなった』のは鋏がそうやって煽って来たからよ」
「言わないでよ、僕も反省してるんだから」
「(ガチャ)ちょっとぉ、いつまで扉の前で話してるのぉ? 入った入ったぁ」
ツムグに引っ張られるように研究室へと入る僕とユエ。室内は、宛ら薬品臭い理科室のよう……では無く、本棚やお洒落なインテリアが配置された若者向けのカフェのよう。科学者成分はノートPCくらい。
「ようこそ私のラボにぃ。じゃあ早速ぅ、トライデントを見てもらおうかなぁ?」
「何がラボだ、横文字で格好つけちゃってさ。てか呼んどいてコーヒーの一つも出さないの? ケーキとアイスハニーカフェオレな」
「私は紅茶で」
「弟妹が冷たいよぉ」とツムグはブーたれつつ、慣れたように冷蔵庫へと向かった。




