15
◆ ◆ ◆
「それで――実際、イナリちゃんはどう思う?」
ツルちゃんが家に帰った後の二人きりのテーブル、親戚の狐っ娘にそう訊くと
「あ? 何がだよ」
と彼女はフォークでサラダを突きつつ訊き返して来る。主語が無ければ当然の反応か。
「さっきのツルちゃんの恋人云々の話だよ。イナリちゃんは、本当の所、ツルちゃんの事どう思ってる?」
「……。一番信頼してはいる」
素直に答えてくれた彼女。
「背中を任せるならあいつだとは思ってるぜ。目離すと何するか分かんねーって心配のがデカイが……そういう意味じゃ、目が離せねぇ」
惚気にしか聞こえない台詞。それは、
「それは『恋心』とは違うの?」
「恋心、ってのの感覚がそもそも解らんがな」
「そこだよ! (ガダンッ)」
と立ち上がったカサネにイナリちゃんがビクッとなって
「ど、どこだよ、お前もキレる若者か?」
と怯える。狐耳がペタンとなって可愛い。
衝撃でテーブルに少し溢れたコーヒーを紙ナプキンで拭きつつ、
「好きな人の事を考えるとドキドキする、好きな人が異性と話してるとムカムカ嫉妬する――これが一般的な恋心、ってやつなんだと思うんだけど、イナリちゃんはこんな感覚、ツルちゃんと居て感じた事無い? てか、生涯で感じた事ある?」
「あー……無い、かな」
「うん、カサネも無い。ところで、カサネって告白されまくりなモテモテじゃん?」
「反射的にビンタしそうになったわ。自慢か?」
「何言ってんの、イナリちゃんも前にラブレター貰ってワタワタしてたじゃん。君は君で『狐耳ロリ巨乳』って個性で男子に人気なんだよ?」
「……それはどうでもいいから、話続けろ」
「あの学園には色んな人材が揃ってる訳で、運動部のエースだったり大企業や代議士の息子だったりが居て、先輩後輩問わずカサネに告白して来るわけ」
「大変だな。でも毎回振ってんだろ? 試しに遊んだりとかしてみたりとかしねぇの?」
「そんな気が起きなくって……毎度素っ気なく振ってるよ」
「大丈夫かそれ? プライド高そうな変な男に付き纏われそうなもんだが」
「大丈夫。ツルちゃんが『縁切って』くれてるから」
「便利だよなぁアイツ」
「まぁ、お断りするのは、カサネの理想っていうか基準が高い所為もあるんだけど」
「なんだよ、理想とか基準って」
「ツルちゃんを越える男の子、かな」
「……お前、それは……」
「ね? 現れる気がしないでしょ。昔から一緒に居る男の子? がツルちゃんだと基準が彼になっちゃうの。スケベで、ダラしなくって、適当で……優しくって、格好良くって」
「惚気にしか聞こえねぇ」
「でさ。少し話は変わるけど、カサネに告白して来る男の子って、皆『主人公になりたがるタイプ』なのよ。兎に角上に立ちたい、目立ちたい、注目されたいっていう人間ばかりで……ホント没個性っていうか、つまんないっていうか」
「そういうヤツは多いだろ。てか急に口悪いなお前」
「因みにイナリちゃんはカサネ的に『主人公タイプ』だと思う」
「馬鹿にしてんのか」
「違う違う、主人公タイプってのは、『気付けば上に立ってる、目立ってる、注目されてる』っていうヒーロー体質の人だよ。こういうの、カサネは好き」
「……、で、問題の鋏さんは?」
「カサネが主人公タイプ並に好きなので――黒幕タイプ」
「あー……、うん、成る程ね、解る」
「魅力的だよねー。のほほんしてる一方で腹の中じゃ何企ててるか解んないっていうか、隠しキャラっていうか、裏で手を……いや、ツルちゃんの場合『糸を引いてそう』っていうか。狂言回しとはあの子の事。主人公なイナリちゃんと相性良いのも分かるね」
「絶賛だな。しかしカサネ、あたしだからハッキリ言うが、お前相当歪んでるぜ」
「ツルちゃんのお陰だねー、責任取ってもらわなきゃ」
「なのに、好きじゃあないんだろ?」
「宇宙一好きだよ。これが『恋心に昇華しない』のがおかしいって話。カサネが『恩も感じない冷徹な女』ってんならそこで終わりだけど」
「別に、そういう好きって感情もあるだろ。家族とか友人的な好きも。そんな好きでも、付き合ってる男と女は世の中にごまんといる」
「……前に、ツルちゃんが言ってたんだ。『赤い糸で結ばれた者同士が出会った時の感情は、言葉や理屈で表せない』って。カサネは、家族愛とか友人愛とか、そんな曖昧な好きで妥協したく無い」
「……結局、何が言いたいんだ?」
「解るでしょ? この『ツルちゃんに恋出来ない現象』、そろそろ無視出来ないよ。いや……昔は確かに、あの子に『恋してた記憶』があったのに、今は無い。世界が『彼に恋するのを阻止してる』。誰かが裏で、『糸を引いてる』と思うんだ。イナリちゃんだって、思う所はあるんでしょ?」
「……」
「第一、イナリちゃんが京都からこっちまで転校しに来たのだってツルちゃんが居るからでしょ? 信頼してるだけ、って相手の為にそこまで出来ないよ、普通」
「……」
「ツルちゃんは、やっぱり、『何かを隠してる』。匂うんだよね。カサネの鼻がそう言ってるんだ」




