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「――あ? (ガシッ)おいテメェなにさり気なくカサネに触ろうとしてんだ?」
「ブヒッ!? な、なんの話!? こ、これは名誉毀損だぞ!」
「ちょっ、イナリちゃん大袈裟だからっ。もぅ、ツルちゃんもお父さんも止めてよっ」
「よっしゃオヤジっ、イナリに加勢するぞ!」
「(コキコキ)」
「人選間違えた!」
「は、離せ! お、お客様は神様だバブヒィ!」
「神様なら間に合ってんだよ」
途中、迷惑客を外に投げ捨てるそんなハプニングも挟んだりして……一時間後。
「はぁ疲れた。全く、何でこの店こんなに忙しいんだよ」
「ツルちゃんが人気店にしちゃったからでしょー? ハイこれ」
客の消えた店内のテーブルに突っ伏す僕の前に、カサネがアイスコーヒーを置く。
「そうなんだけどもさー。おうオヤジ、なんでモーニングなんて勝手に始めてんだよー。余計忙しくなるでしょー?」
オヤジは厨房で綺麗な奥さんと共に洗い物や仕込みをしつつ、バツの悪そうな顔でこちらを見て、
「……うるせぇなぁ。本来十時の開店だったってのに、毎朝六時から寒空の下で並ばれたらコッチが悪モンみたいになんだろ。代わりに次の営業は十五時からだから文句言うな」
「ふぅん。ま、店主が決めた事ならいーんじゃなーい? ほら、それより早く手伝ってあげた僕らに朝飯よこせよー、イナリお嬢待たせる気かー?」
「お前にお嬢って呼ばれるのは鳥肌が立つからヤメろ」
お嬢はコーヒーや紅茶が苦手なので代わりにミルクをストローでクピクピ飲んでいる。子供ね。
「ねーねー、今更だけど、どうして二人は一緒だったの? (クンクン)……この匂い……カレー……お酒……。も、もしかして、お泊まり会!?」
「「うん」」
酒は飲んでないがな。
「にゃー! だったらカサネも呼んでよー! ハブられたみたいでイヤー! この匂い! 更にはあのケーキバイキングにも行ったでしょ!」
相変わらず嗅覚だなぁ。
「カサネはほら……リア充だから、僕らみたいな陰キャと一緒に居るのはダメだと思って……ねぇ?」
「ねぇじゃねぇあたしを巻き込むな。てか鋏とカサネを一晩も一緒のとこに置けねぇよ。この男と来たら、昨晩も無理矢理あたしに……」
「(酔ったみたいに)乱れてたねーイナリったら」
「むぅ……やっぱり楽しそう! イナリちゃん心配せずともカサネとツルちゃんは幼馴染! 何度も同じ布団で寝た仲なんだから! この男の事はイナリちゃん以上に知り尽くしてる!」
「お、おう。じゃあ、お泊まり会は今度な」
わーきゃー姦しく触れ合うカサネとイナリ。
この二人、実の所僕より先に知り合っている。
『色々あって』、カサネが両親と呼ぶオヤジと奥さんは、本当の親ではない。
喫茶店オーナーであるオヤジは『尾裂狐家の者』だ。
それでまぁ『色々あって』、本当の両親が消えたカサネを、子が居なかったオヤジ夫婦が引き取った。
そんな関係性で、カサネはイナリと昔からの顔馴染みというわけである。
この二人は、『僕より先に』知り合っている――『そう二人は信じて疑わない』。
「へー、ツルちゃん、昨日は市内でそんな無茶したんだー。でも幼女ちゃん助けられたんでしょ? 何やかんやでツルちゃんはいつも女の子助けるヒーローだからねぇ」
「そうなんだよっ(ドンッ)」
「キャッ!?」
「お、何だ唐突に、キレる若者か?」
少し溢れたコーヒーをナプキンで拭きつつ僕は女の子二人を睨み付け、
「自分で言うのも何だけど、僕ってイケメンじゃん?」
「イケメンじゃねぇな」
「ねー、可愛い系だよねー」
「で、女の子助けまくるヒーローじゃん?」
「自分で言うなよ」
「だから学園の女子人気高いよー?」
「なのに――何で彼女出来ないの?」
「「…………」」
呆れのような、苦笑のような顔になる二人。
「う、うーん、そりゃあお前って、何か扱い面倒くさそうだからじゃね? 『そこらの同世代な女』じゃ心労多過ぎて手に負えねぇわ」
「みんなのマスコット的なアレだから誰かの物になると針の筵に合いそう、だから?」
「あーそれはあるかもな。『お前の立場もあいまって』、共有財産的な扱いなのかもな」
「ふぅん。じゃあみんな知らないとこで『大人な女性』と付き合うなら問題無しだな?」
「「だめ(だ)」」
無表情。
蔑みでも憤怒でも無く、本当に無表情な二人は、美少女であっても不気味。
「なにさなにさ! 二人して人をモノ扱いして! こんな喫茶店なんかに居られるか! ぼくは帰らせて貰う!」
「おいツル坊、朝飯出来たぞ」
「あ、食べるー」
と僕は上げた腰を下ろし、アツアツなグラタンとオニオンブレッドに齧りつく。
「そういうとこだぞ」
「そういうとこだよねー」
女の子二人が何か言ってるが、どういうとこだろう?




