11
――その後。
少ししてから警察が到着。女子大生は当然御用となったわけだが……女子大生の後を警官と共に着いて行く男は、ギロリ、オーナーの作ったオニギリを頬張る少女を睨めつけ、吐き捨てた。
『絶対に……! お前は忘れないぞ……!』
『もぐ? (ごくん)あー、残念。僕らの間にはもう【縁は無い】よ』
そんなこんなで。
コレが、あたしと鋏の出逢いの日の出来事。まぁ――今日の飲食店での事も含め――そんな出来事ですら、鋏と巻き込まれた中では【地味な事件の部類】だけれど。
話はもう少し続き……
ペンションでの事件の翌日。オーナーの車で駅まで送って貰ったのは、あたしと鋏だけ。二人きりになってしまったのだ。
『で、この後どうする? どこ行こっか?』
『なんで一緒に行動する前提なんだよ。あたしは……このまま帰る』
『京都に? 東北には行かんの?』
『なんで当然のように色々把握してんだ気持ち悪りぃ……お前にゃ関係ねぇだろ、帰れ』
『僕……今家には帰れない身なんだよねぇ』
『……なんだよ、厄介な事情でもあんのか?』
『姉妹と喧嘩して家出中なんだ』
『帰れよ!』
その後も鋏はしつこく絡んで来て、結局、何故か一緒に東北へと行く事に。
『ほらほらバスが来たよっ(ムギュ)』
『お、おい、馴れ馴れしく腕組むんじゃねぇよ』
何故か早くなる心臓。
地元京都でも、あたしを師匠だの先輩だのとやけにベタベタ慕って来る後輩女共がいたが、ここまで動揺はしなかった。
異性など論外で、尾裂狐の家の男達に比べたら外の男はナヨナヨと情け無いという思いしか無くって……なのに、同姓相手にこんなに焦るなんて。あたしにそっちの趣味は無い、と、この時は必死に自分に言い聞かせていた。
電車を乗り継ぎバスを乗り継ぎ……数時間後、着いたのは、杜の都仙台。
『美味しい牛タンの店に案内したげるぜッ』
『……詳しいみたいだが、お前、やっぱこっちの人間なのか?』
『ひ、み、つ』
この時の鋏と来たら矢鱈自分の事を話したがらず、理由を訊ねれば、その方がミステリアスなキャラっぽいから、という適当な返答で……本当に、それ以外の理由は無かったのだろう。
結局――それからの三日間で知れたのは、名前と【本当の性別】くらいだった。(ホテルの大浴場の女湯にて判明。あたし以外誰も騒がなかった)
『ねぇイナリ、僕まだ家の方に帰り辛いから、どっかの安アパート借りて暮らそうぜ』
はじめに提案して来たのは鋏。あたしの春休みの終わりを来週に控えたその日のお昼、そんな事をラーメンを啜りながら話す鋏に、あたしは。
『……んな事言っても簡単に借りられるもんじゃねぇだろ。未成年だから親の承認必要だし、それ以前にそろそろ帰ってこいって、家の奴らもうるせぇし』
『なに、ビビってんの? このチキン野郎! ママのお尻にキスしな!』
『何で欧米風な煽りなんだ』
『じゃあ家の承認あれば良いんだね?』
と鋏は何処かに電話し始める。
『もしもし? あ、狐花さんおひさー。今君んとこのイナリちゃんと一緒なんだけどさー、うん、理由は聞かず仙台のどっかのアパート確保してくれなーい? うんボロいのでも良いから。うんじゃあ決まったらまた電話で、うんはいよろしくー(ピッ)』
『……おい。何でお前今、普通にウチのお袋と話してたんだ。知り合いなのか? ダチ感覚で連絡先交換出来る相手じゃねぇぞ?』
『ひ、み、つ』
そのままトントン拍子に始まる同棲生活。
意外にも特に事件は起きず、ゆっくり、時間が過ぎて行く。
少しだが、鋏も自分の事を話してくれたりした。
肝心な事は言わなかったが……
『あの日可愛い服着てたのは、家出の時間違えて妹の服持って来たから』
とか
『あの日爆弾を解体出来たのは、自分には繋がりを断つ力があるから』
だとか、よく分からない話だったが……鋏の一部に触れられたような気がして、悪い気はしなかった。出逢った時の警戒心はどこへやら。
――漠然と、永く続くと思っていた気分屋との生活。
その終わりは……始まりから一週間後……伝えていなかったあたしの春休み最後の日に、唐突に、迎えた。




