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7

――夕方。


「はぁ……やっと警察から解放された。全く、イナリの所為でぇ」

「これは流石に鋏に同意ね」

「しつけぇぞお前ら!」


プンスカプンなイナリが声を荒げるのは、再び駅構内だ。視線が集まるも、イナリのひと睨みで皆が視線をそらす。

結局あの後、飲食店の事件の件で警察の事情聴取に巻き込まれる羽目になったわけで。


「ま、なんやかんや、僕は楽しかったからいいけどさ。で、この後どうする?」

「流石に時間も時間だし、解散ね。ほら、『行くわよ鋏』」

「えー、私帰りたくなーい。あ、そうだ、私、今日はイナリんちに泊まるー」

「んなっ!?」


不意打ちされたような裏声のイナリ。その反応が見たかった。


「君も一緒に泊まらない?」

「私は帰ってやる事あるし無理。てか鋏、あんた、明日は日曜で『神社も忙しいってのに何さぼろう』と」

「じゃあ僕らは行くねー。後はよろしくゥ!」

「お、おいっ」


僕に背中を押されるがままのイナリ。離れて行く生徒会長の「はぁ……」というため息が背後から聞こえた、気がした。


――その後。


僕らは電車に乗って二駅分移動し、イナリんちの最寄り駅である太子堂駅に到着。この駅の近くにはヨークベニマルと、少し歩いた先にはコメダコーヒーもあって、『前に』よく利用していた。まぁ、そんな情報はどうでも良くって……


「ほら、早く鍵開けてよ。こっちは買い物袋で手塞がってんだから」

「何でそんな態度デカイんだ……」


駅から歩いて一〇分程の場所にある、そのアパートへ辿り着いた。


「ただいまー……って、うわっ、『また』散らかってるっ」


イナリの部屋は1K七畳和室の安アパートなのだが……脱ぎ散らかされた服類、積み重なるコンビニ弁当やらカプ麺の容器やらバランス栄養食の残骸やら……まるで独身男性のような凄惨な部屋。昨日泊まった部屋とは正反対だ。まぁ男と違って『くさくない』のが唯一擁護出来る点か。


「べ、別にいいだろっ、住むのに支障はねぇしっ」

「ぶった斬るぞクソ狐」

「ヒッ!?」

「折角『前に』僕が綺麗にしてやったってのに……しゃあね、夕飯作る前に少し片すか。お、ちゃんと『僕のエプロン』は綺麗に残しててくれたんだ」

「あ、あたしは、お前の方がよっぽど威圧感あると思うぞ……? (ドキドキ)」


それから――ササッと洗濯物を纏めて洗い、ゴミも纏め、コロコロで畳もキレイして――何とか『人の住める』空間へと戻し、夕食作り開始。僕も色々と作れるけど、面倒臭いので今回はカレーに。


「な、なんか手伝うか?」

「えー? イナリ、『日本刀の扱いは達人』なのに包丁は壊滅的じゃん?」

「あ、あたしだってアレから練習してんだよっ」

「ほんとぉ?」


と訝しみつつ、試しに皮を剥いたジャガイモを渡してみると、ぎこちないながらも一口大にカットして見せた。感動。娘の成長を目にした親の気分である。


「ん? あ、よく見たら『置き忘れた歯磨き粉』が残ってんじゃん。使ってくれてる?」

「ンな糞まずいの使わねぇよ……」

「でも少し減ってるような? 何か癖になる味だよねー」

「……」


――その後カレーも出来上がり、ブロッコリーのサラダとコンソメスープも用意して夕食。卓袱台の上に料理を並べ、向かい合って座る。イナリと二人きりの食事などいつ振りか。まぁそんなに前でもないけど。

味は、可もなく不可もなく。まさに家庭の味。


「時間があれば市販ルーじゃない本格的なの作れたんだけどねー、ナンも焼いてさ。イナリが事件引っ張って来なきゃー」

「しつけぇなっ。……あたしは、こういうのも嫌いじゃないし」

「そ。ならいいけど」


だらだらとした食事タイムが終わり、洗い物も終えて……結局、それからもだらだらとした時間。


「イナリったらさぁ、お金はあるんだから、もっと広くて良い部屋借りられるでしょ。近くにお手頃なマンションも有るよ?」


テレビを適当に流しつつ、京都産高級茶葉で淹れたお茶をすすりながらふと訊ねると、


「……別に、寝るだけの目的の部屋ならここで支障ねぇし。てか、鋏に関係ねぇだろ」

「僕が伸び伸びしたいんからなんだが?」

「あつかましいっ」

「それとも」


グイッと顔を寄せ、


「狭い方が近い距離で居られるから、かな?」

「っ……!」


焦ったように殴りかかってくるイナリ。彼女の拳は軽量級ボクサー以上に速い上に鉄をも抉る威力。必死に避けつつ、


「落ち着いてよ。『僕と』過ごした部屋を離れられないのは分かったけど、人を泊める時に布団を二つ敷けるスペースは欲しいでしょ? 『前みたいに』二人で一つの布団が良いならもう何も言わんけど」

「殺すッ!」


血の気盛んだなぁ。煽る目的で無く事実を話してただけなのに。


「まぁまぁ……、ん? あ、よく見りゃあそこに良いもん置いてんじゃん。『京都の』実家から取り寄せた?」


僕が指差すのは、一本の一升瓶。中身はお酒、ではなく『呑むとテンションの上がる謎の美味しいジュース』だ。お酒ではない(念押し)。


「ハァハァ……誤魔化しやがって。……勝手に送られて来たんだよ(ポンッ)あ、勝手に開けんなっ」

「少し減ってるね、寂しさを酒で誤魔化すOLみたいな呑み方してたのかな?」

「おめぇは一々一言多いんだよっ、別にどう呑もうが勝手だろっ」

「確かに。ま、兎に角呑も呑もっ。さ、どぞどぞ」

「い、いや。あたしはもう、『前の』に懲りてお前の前じゃ呑まないって……ムグゥ!?」


お猪口に入れた液体をうるさい口に無理矢理入れてやると、案の定――――あれ?


「おかしい、前は即落ちしてアヘアヘ言ってたのに」

「アヘアヘってなんだよ……あ、あたしだってヤられっぱなしじゃないんだ、思い通り行くと思うなよっ?」


「キャーイナリサンカッコイイー! さ、どんどん行こっか」


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