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『キュッキュ ドムドム』
体育館では数名の男子生徒らと樒さんがバスケのミニゲームをしていた。五対一という変わった構成だったが、それでも、樒さんはその男子生徒らを圧倒してる様子だ。ボール運びを見る限り、男子生徒らも素人ではなさそうなのに。
「大人げないなぁ、しき姉ぇは」
ビクってなった。背後から急に声を掛けられてビクッてなった。
「あれ、君は因幡さん。思えば話すのは初めてか。改めてよろしくね」
爽やかなプリティスマイルを向けて来る沙羅さん。お姉さんと同じく意外にも馴れ馴れしい。少しドキドキ。先に言っとくけどホモ要素はありません。
『パシュッ』とゴールネットの揺れる音。また樒さんが決めたようで、男子チームは発狂……しつつも、現状を楽しんでる様子。
「男子チームは皆身長一八◯越えだし、それぞれが中学時代に各県の代表としてバスケの全国大会に行った経験もある。なのに、姉に手も足も出ない。『利き手使用禁止』のハンデがある上でもね」
樒さんがゴールに向けて投げた球はバックボードに当たり、跳ね返った球を自らが『ズドンッ』とダンクで易やす叩き込む。
僕と同じで身長一七0無さそうなのに、ようやるわ。
「結構この学校じゃ有名なんだよウチの姉。余計なお世話をするのが好きな奴で、周りの評価は極端だよ。好きな人は好きで、嫌いな人は嫌いっていう。裏表の無いただの脳筋馬鹿なんだけどね」
さっきから訊いてもないのに教えてくれる沙羅さん、姉思いな人だ。
「ま、そんな姉でも、この学校単位で見れば一部の有名人でしかない。それ程にここは、おかしな連中が集まる場所なんだ。……この学校は君を飽きさせないからさ、楽しんで頂戴」
沙羅さんの目付きは、僕を心配してるかのようなソレだ。う〜ん、何を考えてるか掴みにくい人だけど、糸さんは『勘が鋭い』と言ってたな。僕の『空っぽさ』を見抜いたか? 要注意人物だ、もう僕を男だと見抜いて来るやもしれない。
いや、別にバレる事自体は大した問題でも無いしモノさんに社会的に抹殺されようが屁でも無いのだが、折角五色家に買って貰った女制服なのだからせめて一年は着通したい。勿体無い精神大事。
「――あ! 沙羅っち! 蜜ちゃんナンパすんな!」
体育館内に響く声。音の出処に顔を向けると、モノさんがこちらを指差しながらズンズン近付いていた。後ろには糸さんも居る。
「あらら、怒られちゃった。どうもモノさんは昔から僕に対してツンツンしてて。幼馴染キャラ特有の嫉妬かな?」
「何が嫉妬さ! あっちにこっちに色んな女の子に手出して!」
「酷い言われようだ。それにナンパなんてしてないよ。この学校の珍獣を紹介してただけさ」
「どうだか! 君なら初見の女の子に『ハァハァ……ヌード撮らせて』とか平気で言うだろ!」
「ヌード撮影ねぇ、まだやった事無いけど興味のあるジャンルだなぁ。モノさんお願いしていい? 土曜日午前中なら時間あるけど」
「何話し進めてんの! ほら解ったでしょ蜜ちゃん、この人こういう肉食系男子なの! 近づいちゃだめだよ、孕んじゃうから!」
「もぅ、勝手に消えちゃダメでしょう蜜さん」
「だって……」
「聞いてないしまた二人でイチャついてる!?」
モノさんが何かを叫んでいた。
――と。
「あっ」
片耳が、樒さんの小さな声を捉えた。
首を回すと……顔面直前にボール。
(あ、終わた)
僕は本能的に目を閉じる。今まさに濃厚なキスをかまさんとしているボール、それを受け入れる覚悟を僕は決めた。
『パンッ』
……。
一向にやって来ない痛みと衝撃。恐る恐る目を開く。
「大丈夫か蜜!」
顔面直前に今度は樒さんの顔があってビクッてなった。ボールよりビックリしたわ。
「悪いなっ、アタシがパスミスした所為で」
「いや、別に……」
「でも不思議なもんだな! お前の顔に当たる直前にボールが〈破裂〉するなんて」
言いつつ樒さんは僕の足下を見る。
そこには『綺麗に二つに割れた』元ボールがあって……
思い返せば確かに、パンッという強めの風を感じたかも。
「や。破裂というより切断だな、うん……ククッ」
細めた目を僕に向ける彼女。疑い、というより興味寄りに感じる視線。隣の沙羅さんも『ほほぅ』と関心有り気に顎に手を添えている。
……何なんだ急に。僕が何かしたとでも? 『切れたナイフ』と恐れられた事も無い僕にそんな真似が……
「おらガキ共っ始めっぞ。ん? どしたんだお前ら固まって? ――あ! ボール割りやがったな!」
担任のヤンキー教師(ジャージ姿)がプンスカしながら迫って来て、『落ち着かない学校だな』と嘆息しようとした、その時、
『ガララッ!』
乱暴に開かれる体育館の戸、
「あ?」
と振り返る担任。
あっちを見たりこっちを見たりと忙しいけれど一応見てやると――黒装束を着、イカの頭のような三角目出し帽を被った数名の謎集団が、出入り口に立っていた。
それぞれの手には黒光りした【マシンガン】。
(サプライズイベント? まぁそういう事もする学校なんだろう)
今更僕は驚かない、つもりだった。
「フォッフォッフォ! フォッフォフォッゴフォァ!?」
大声で『さぁ悪夢の始まりだ!』とでも言うように自信満々に何か叫んでいた連中の一人が突然、腹を拳で撃ち抜かれ、崩れ落ちる。
「フォア!?」「フィフゥ!?」「フェフォ!?」
人間の認識速度を凌駕した【彼女】の急襲に動揺? 中のお仲間連中。
アレ、どうも様子がおかしい。思ってた空気じゃない。コレ楽しい催しじゃないの?
「ん? 今の硬い感触……や、まぁいいか。面倒くせぇ事には変わんねぇし」
床で寝そべる黒装束の頭を足で踏みつつ、かったるそうに、樒さんは右肩を回した。




