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さ、お代わりでも持って来ようかと立ち上がった僕は、
「オラァ!! お前らその場から動くんじゃねぇ!!」
唐突に始まった――拳銃とアーミーナイフ持った男の登場という――楽し気なイベントに、すかさず生徒会長と一緒に、トラブルほいほいイナリを見るのであった。
「……なんだよ、あたしは関係ねぇぞ」
「「ふぅーん」」
「んだよ揃いも揃って!」
「おいそこのガキ共うるせぇぞ! この手にあるもんがわかんねぇのか!?」
「やかましい! テメェのせいでこっちは迷惑してんだ! ぶっ飛ばす!!」
イナリはテーブル上のケーキナイフを握り締め、強盗男に八つ当たり気味に突撃。獣のような俊敏さで近づいて来るイナリに、強盗男は当然戸惑い――一瞬でゴツいアーミーナイフと拳銃を弾かれ「ゴフッ!?」 イナリの蹴りで、問答無用に豪快に吹っ飛ばされた。
『ドンガラガッシャン』と派手に崩れるテーブルや椅子に客も小さく悲鳴を漏らす。うーむ、流石修羅場慣れと褒めたいところだが、いい加減加減というものを知って欲しい。
「ったく、雑魚が粋がりやがって……やっぱり、拳銃は偽物か。ん、直前まで何処かに電話掛けてたようだな。仲間か? まだ近くに居るならついでにこいつも……」
イナリの手にあるのは、一つの携帯電話。男に近付くと同時に、ちゃっかりくすねていたらしい。手癖の悪い探偵だ。
『ピリリリリ……』
店内に響く着信音。音源は、僕のすぐ近く。その音源を中心に、ザッと、人が離れて行く。中心に居たのは……一人の『店の制服を着た』男。
誰かがポツリ、呟いた。「て、店長?」と。
「い、いや、俺は違っ……!」
「間抜けは見つかったようだな。まさか店の責任者と強盗がグルだったとは。その側の鞄に入ってるのは店の金か何かか? 随分と用意が良いじゃねぇか」
「き、決め付けないで下さいお客様。たまたま、同じタイミングで電話が鳴っただけで」
「じゃあ出てみろよ。てか、仕事中ならマナーモードにしてろよ間抜け」
「くっ……! くそ!」
焦った店長は、あろう事か近くに居た客を引き寄せ、丁度手に持っていた【牛刀】を客の顔面近くに置き、
「人が念密に練った計画をぶち壊しやがって! テメェみたいなガキが来なけりゃ! このまま捕まるくらいなら客を道連れにしてやる! テメェのせいでこいつは死ぬ!」
「……もうお前、終わりだよ。二重の意味で」
「ああ!?」
「……なんで、よりにもよって、そいつを人質にしたんだ。『刻まれるぞ』」
店長が人質に選んだのは――僕でした。
「キャー、タスケテイナリー」
「棒読みやめろ、少しは緊張感持て」
「えーだってさぁ、僕相手に【こんな鉄の板】だよ? 舐められすぎてやる気でないわ」
僕は指を一本立て「お、おい何をして」スッと、牛刀の刃を撫でた。――カラン。「は?」と、地面に落ちた【包丁の刃の半分】を見つめる店長。
『ガンッ!!』 同時に、鈍い音が背後に響いてて……ドザリ、店長が地面に倒れた。
「あまり無茶しないでよ、鋏」
「いや、今の君には言われたくないけど、助けてくれてありがとう」
手に持った店の椅子で、店長をぶん殴ってくれたようだ。躊躇がなくて怖いなぁ。
「オラァ! ガキ共が舐め腐りやがって!」
と。終わったと思っていたゴタゴタはまだ続くらしい。イナリに飛ばされていた強盗男がいつの間にか復活していて……
「ま、ママぁー!!」
僕が先程、駅で助けた幼女を人質に、アーミーナイフを突き付けていた。
瞬間、僕の中に『既視感』が過る。
『助けたいのであれば、容赦はするな』
と僕の中に居る【神様】が唆す。
そうだ。僕が幼女に余計な事をしていなければ……助けていなければ、こんな運命に巻き込まれる事は無かったかもしれない。僕の責任。
だから、責任をとる。
僕は目を凝らして――強盗男の【縁糸】を瞳に映し、掴み、『思いっきり引っ張る』。
「おあっ!?」
僕目掛けて無抵抗に飛び込んで来る男。
腰を低くし、捻る。
その構えは、最速の剣術、居合い。
神様は教えてくれた。技名は―― 『ドグシッ』 ……ん?
一閃が決まる、その刹那。
僕の目の前にイナリが現れ、飛び込んで来た強盗男の顔面に、足の裏をぶち込み、蹴り飛ばした。
再び派手な音を響かせながらテーブルや椅子を撒き散らす強盗男。どうやら、ある意味イナリに『助けられた』ようだ。
「ふぅ……間一髪。おい鋏、場所考えろよ、血の雨でも降らすつもりか」
「何をおっしゃる、僕の一級の切れ味は血の一滴も散らせないって有名でしょ」
「ものの喩えだよバカ、ショッキングなシーンになるのは間違いねぇだろバカ」
「お二人さん、イチャイチャしてるとこ悪いけど、そろそろ立ち去った方がいいんじゃない。じきに警察も来るでしょうし」
生徒会長の言う通り、ざわざわと人が集まり出したようなので、面倒くさくなる前に消える事に。
「かみさまー、またありがとー」
ううむ。あそこで大きく手を振る幼女には、また今度、会う事になる縁を感じる。




