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「――ふぅ。この体型に戻るのはいつぶりか。ちと、姿見が欲しいのう」
ペタペタと鋏が自らの身体に触れるその度に、私にも同じ感覚がやって来る。私の意識は今、『鋏の中』に居るのだ。
「ん~、おっ、そこでよいか」
と鋏は中庭中央にある噴水まで歩いて行き、水面を覗く。映っていたのは鋏……だが、顔付きや身体付きは以前より――中学生体型から高校生位まで――成長していた。巫女服からだらしなく豊満な胸元を覗かせている。
……しかし、それなりに目立つ行動をとっていたのに周囲の誰も此方を見ようとしない。恐らくは鋏が縁糸を切り、認識されぬようにしたのか。
「これじゃこれじゃ、これが本来のぼんきゅっぼんな鋏じゃ。蜜に見せたいのう」
『……急がないでいいのですか』
と心の声で訴えると、
「おおそうじゃったな。む、話をすれば、だ」
鋏の視線が校舎側に向いて……瞬間、
「こ、こら糸っ、精神を安定させろ! 融合が解ける!」
どうしようもない程に、私の心は揺れ動いていた。仲良さ気に歩いて来る蜜さんと樒さんの二人を見たのが原因かは分からない。
二人の縁糸は赤く力強く輝いているのに、私と蜜さんとの縁糸はやはり切られている。
私はこの目で、縁糸の切れた相手を何度も見て来た。切れたら最後、最早他人である。
二人は談笑しつつ、此方に気づくことなく通り過ぎて行く。……このままの方が良いのだろうか。そもそも、一人に二本の赤い縁糸がある事自体がおかしいのだ。
いっそ、縷々子さんに従えば、歪んだ過程とはいえ皆が幸せになれるかもしれない。
だから――
「ん? おい蜜、そんなモンいつ買ったんだ」「え。あ~、グミ、だね。そういえば菓子研で買った、かも?」「そういうの好きなんだな……って、何泣いてんだお前!?」「え? あ、れ? (ポロポロ)」
……、……。
「フン、安定したな。なんじゃ、貴様もヒロインの涙には弱い口か」
『どうでもいいんで、早く縁糸の紡ぎ方を教えなさい。時間が無いのでしょう?』
「口の減らん餓鬼めがっ。行くぞ!」
――鋏は走り出し、蜜さんの小指からプラプラと垂れる赤縁糸を右手で掴む。
途端、全身がズンと重くなる。
触れてはならぬ禁忌を犯した感覚。
「気を緩めるな! 早く貴様の縁糸と結べ!」
そうしようにも、強力な磁石のように反発し合い結うどころではない。これを――私の力を合わせ一時的に力を取り戻した鋏でさえこうなのに――縷々子さんは軽々とやってのけたのかと戦慄する。
「いいか! 力でやろうとするな! 想いで結べ! 気持ちごと結べ! 二度と解けんぐらい固くな!」
私は……皆が不幸にならない選択をしようとした。
だがその展開では、どうも私が不幸になり、蜜さんを泣かせてしまうらしい。
そんな展開を望まぬ者が居る限り、どうも私は、頑張らねばならぬらしい。
フッ――と、拒みあっていた縁糸から抵抗が消え、「わっ?」蜜さんが此方に倒れ込んで来る。
「おいおい、何転んでんだよ蜜?」
「わかんない。でも……小指があったかい」
指切りでもするように、蜜さんと小指が絡み合っている。それを離さんとばかりにグルグル巻に紡がれ直された赤縁糸。
「もう平気じゃろう。時期に世界は元に戻る」
いや――縁糸が一度切れた場合、例え再び紡がれようが記憶は戻らぬ筈、で……。
「ふん、さてどうなるかの。そればかりは……次に起きた時まで……解らん」
力を使い果たした鋏と私。
意識が緩やかに遠のいていく。
次に起きた時……私達は……。




