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……私の胸の中では、僅かな罪悪感が燻っていた。
縁の相談を受けた日はいつもこうだ。これでも、罪悪感は相談を始めた当初よりはマシになった。何れは、感じなくなる日が来るのだろう。
蓮華さんと縷々子さん、二人に繋がる縁糸は〈黒〉だった。
彼がどんなにアピールをしようと、二人が結ばれる事は無く、寧ろ、悪い未来しか無い。
鋏はその黒縁を切らないだろうし、私もこれ以上彼に新たな縁を結んでやるつもりも無い。
運命と、諦めて欲しい。それが普通なのだ、と。
(――さて。流石に蜜さんと鋏を自由にさせ過ぎたな)
そろそろ二人を呼び戻そうと、携帯を取り出し番号を押し、耳に当てる。
……、出ないな、気付いてない振りでもしているのか――そう思いつつも、何か『底知れぬ不安』を覚えずには居られない。
そんな時、ふと、携帯を耳に押し当てたまま椿親子が歩いて行った先を見る。二人はまだ視界の先に居た。丁度、校舎に入ろうとしていた所で……スッ……一人の少女と擦れ違う。
少女は私の視線に気付き、左手を振る。
そこではじめて相手を【縷々子さん】だと知覚した。
……、待て。
どうして、蓮華さんは縷々子さんに反応しなかった?
どうして、縷々子さんが『鋏を持っている』?
どうして、蓮華さんと縷々子さんが『赤い縁糸で結ばれている』?
立て続けに起きた不可解な現象。縷々子さんが私の前で止まる。
その無邪気な笑顔は、困惑する私を楽しんでるようにも見えた。
「こんにちわっ。初めまして……ではないですね、一度実家で会ってるしっ」
「縷々子さん、ですよね」
――言ってる自分でも、確証が持てない。視線の先に居る少女、見た目は変わらないのに、雰囲気というかオーラが別人で、だから縷々子さんだと認識出来なかったのだ。巫山戯ているだけとは思えない。
「はいっ、因幡蜜の『実妹』縷々子ですよっ。但し今は『天使モード ルー』ですが」
実妹、天使、仕事……また混乱する言葉を。
「早い話、お兄ちゃんの境遇も鋏と糸さんの力もその他諸々の事情も『把握している方の縷々子』、そう思って頂ければ結構です、まぁ二重人格みたいな物ですね。……そも、皆さんの物語の中核を成す鋏は、私の『天使の力で創った道具』ですし」
彼女の手にある鋏は物言わず、これが本来の姿とばかりに禍々しく輝いていた。
「我が一家……因幡家は、父が〈天使〉でしてね。娘の私もその仕事に携わったりしているのですが……いえ、第一に、天使というのは――」
過去、現在、未来、平行世界、異世界を行き来し世界を裏で操る〈調整者〉である事、
それぞれが鋏のような道具を一つ生み出せる事など、縷々子さんはペラペラと話す。
此方としては、そんな小説紛いの話を種明かしをされる度に、頭が痛い。
自らも非現実的な境遇なのに、何故かその話には現実味を持てない。




