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〈六〉
「順調?」
そう訊ねて来るのはシロロさんだ。「まぁぼちぼち」と私は返す。
私は今、〈五色神社出張所〉という看板の立つ屋台の席に座っていた。場所は学園中庭の隅っこ。周囲には他にも個性的な屋台が並んでいる。
主な内容は、鋏の縁切りと私の恋愛or人生相談、なのだが……
「鋏ちゃんと因幡君は? ……ああ、成る程、察したわ。また遊びに行っちゃったのね」
頷くと、シロロさんは
「ウチの沙羅君もどっか行っちゃって」
と肩を竦めた。思えば、こうして彼女と二人きりになるのも珍しい。美人相手は少し緊張する。
「まぁいいわ。ついでだし、五色さんに私の未来でも占って貰おうかしら」
「占いとは少し違うんですが……で、何を見れば?」
「沙羅君との相性☆ ……あら、『言うと思った』って顔してるわね」
「はぁ、兎に角、沙羅さんとの相性ですね。えー、はい、バッチリですよ」
「随分適当な物言いね」
と頬を膨らますシロロさん。そりゃあ此方はいつも〈赤い縁糸〉で繋がっているのを見せられているのだ、目を凝らす必要も無い。
「ま、いいわ、信じてるから」
と直ぐに柔らかな表情を見せる彼女。……、そんな顔を見せられて、私は、以前から抱えていた疑問を口にした。
「こう言っては何ですが、何も思わないのですか? 沙羅さん、沢山の女性を囲って……」
「ん? や、そりゃ思う所はあるわよ」
とシロロさんは唇を尖らせ、しかし、直ぐに呆れ顔になって、
「でも、彼が言うんですもの。『皆で幸せは難しいから、皆で不幸に』って」
「……、良いんですか? それで」
「良いんじゃない? 『幸せにする』何て軽々しく言われるよりは信頼出来る言葉だし。……っていうか、五色さんも他人事じゃないわよ?」
え。
「分かってるでしょ、因幡君が沙羅君と似てるタイプだって事。だから、覚悟決めときなさい」
……。
「あら? 噂をすれば」
――シロロさんの視線を追うと、先には此方に手を振って走り寄って来る沙羅さんが居て、
「捜したんだよシロロさんっ。何か卯月さんと鋏ちゃんが『決着つける』ってマロンシステム起動させたら『数値を読み取れません』て表示と変な音と煙が出て壊れちゃってさ。見に来てよっ」
「はぁ、仕方ないわね……それじゃあ五色さん、頑張ってね」
「頑張って!」
――そうして離れていく二人。と、徐にシロロさんが沙羅さんの腕に抱き付いて……
「おや、こんな所でとは珍しいね」
「ふん。私、『ゴム有り』でシた事忘れてないんだから。モノさんとは『無し』でシてた癖に」
「さっきの〈二人羽織バンジー〉の事? あれはさぁ――」
そのまま、二人は校舎の中へ消えて行った……と思って気を抜いたのも束の間、
「あ、ママ! 五色さん居たよ!」「あらあらまぁまぁ」「ゲッ」
普段出ないような声がお腹から出た。今余り会いたくない相手、蓮華さんとその母である椿さんが、シロロさんらと入れ替わるようにやって来た。蓮華さんをあんな場で公開処刑したのだ、息子を溺愛する椿さんにネチネチ言われるのではと警戒していると、
「お久し振りです。この度は何とお礼を申し上げたらよいか……」
屋台の前まで来た大企業の社長に、深々と頭を下げられる。予想外の初手に困惑する私は、「別に……」としか返せない。
「もぅ、こんな所で止めてよママ! 五色さん困ってるじゃないか!」
「蓮ちゃんったら、貴方がやった告白も大概でしょうにっ。すみませんねぇ五色さん、あんな場で息子があんな真似を」
「いえ……」
もう出て来る言葉は二言三言だ。
「それより五色さんっ、無粋ではあるけれど、ぼくが振られた理由、訊いてもいいかな?」
「もうこの子ったら、失礼ですよっ」
――言いつつ、椿さんの目は笑っていない。やはり、私に対して思う所はあるのだろう。
「……、弟が、嫉妬するんです」
「弟? 君、一人っ子でしょ? いや、今は居候している子……因幡さんが居たか。でも彼女は女の子だし?」
「間違えました、妹です」
――どこまで五色家の事を、彼は把握しているのか。怖気が。
「……まぁ、納得しておくよ、追求はしない。いや、逆に謝らなければならないっ。何故ならぼくは今、【新たな光】を見つけたからねっ」
「はぁ」
――何だこの私が振られた感は。
「そ、それでだけど(モジモジ)ライブの時ぼくの隣に居た君ならもう分かると思うが、その新たな光との相性を見て貰いたいんだっ。正直に言って構わない!」
……相性、正直に、ね。 だが私が相手にそのまま伝えた事は今までも無い。 蓮華さんと縷々子さんの縁糸は先程見ているので、今回も軽く触れる程度に。
「縁『は』あります。ですが過度な期待は」
「本当かい!? ヒャッホ!」
「良かったわね蓮ちゃん」
話してる途中なのに……節操なく飛び跳ねる息子を嬉しそうに見つめる母親の図。
「よし満足した! それじゃあ五色さんっ、今後も良いお付き合いを!」
「よろしくお願いします」
訊きたい事だけを訊いて、椿親子は離れて行く。




