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校内は、来客の多さの割りには意外にゴチャゴチャしていない印象。
イベントの多い学園だ、行列の整理にも長けているのだろう。途中イカ焼きやら串カツ等を買ってつまみつつ、
「ムグムグ……そいえばシロロっち、オカ部の出し物は順調? 前情報は報道部の私にも探れない程の完全シャットアウトだったけど、基本はお化け屋敷だっけ?」
「ええ。評判も上々よ。八割の人間がアトラクション中に失神、他は今も放心状態」
「すげェな! 成功の秘訣は何なのさ?」
「大した事は何も。例えば、入室前に付けて貰うリストバンドには心拍数を測る機能があって、緊張が最高潮に達した瞬間驚かせに掛かるとかそんなんよ」
「結構ガチだけど、シロロっちにしては生温いね。武器が弱いってゆ〜か」
「まぁね。正直お客さんの怖い物とか個々人でマチマチだから、数打ちゃ当たる作戦で怖がらせてるの。『トラウマをフラッシュバックさせる電磁波』とか『本物を起用』とか『地獄の門開いたり』とか」
「色々突っ込みどころ多いなぁ」
――そんな会話をしつつ、屋上に到着。丁度アイドル研究部兼スクールアイドル女生徒集団〈キレイキレイ〉がミニライブをしていたようで『ウホウホ』とサイリウムを持つファンのオタ芸が騒がしいがスルー。グラウンド全体を把握出来るフェンス際に移動し、下界を見下ろす。
「マロンシステムの筐体を退かしてそのままステージでライブ、か。蓮華君のバンド〈スパイダーシルク〉の後にエリンギジンジャーの出番だよね?」
頷く私。私達とは別行動をしていた蜜さんらもそろそろグラウンド入りしてる時間で……あ、巨大ロボによじ登って茶栗さんに怒られてる。
「結局茶栗ちゃんはあのロボを何の目的で作ったのかねぇ。オブジェとして見ても十分立派な一体だけれど……シロロっちなら解るんじゃない?」
「そう、ね。全体像と稼働部のディテールを見れば何が可能不可能かは一目で把握出来るけど、黙っておくわ。彼女の目的が何か私も興味が……、ん?」
『キャーキャー』『れんげぐううううん!!』
――唐突な、爆発の起きたような黄色い声。どうやら件のバンドがステージ上に上がったようだ。一人の男性がステージ前に行き、スタンドマイクを握る。
『……え〜、皆さん、熱い想いをありがとう。3人組バンドスパイダーシルクのボーカルギター、椿蓮華です。今まで動画でしか皆さんとの交流の場はありませんでしたが、このような素敵な場で初ライブを送れる事を大変嬉しく思います。今日まで応援して下さったファンの方々、ステージ設営等に協力してくれたママや椿建設の方々、本当にありがとう!』
ギャーギャーと最早悲鳴に近い声援と、ステージ側でハンカチを目元に添えて佇む椿社長。場は既に熱気に……というか混沌に包まれていた。
「さてと。彼が糸っちをここに呼んだワケが今から分かるわけか。おらワクワクすっぞ!」
とモノさん、完全に他人事である。まぁそうなのだが。
『それでは歌います! ぼく達スパイダーシルクの初めての曲――スレッド(糸)!』
始まる演奏。ロックな曲調で、いかにも若者受けしそうな、粘っこく重い歌詞の曲だ。
「う〜ん、いい曲はいい曲なんだけれど……モノさん少し引いてるよ。いかにも『意識してます』って歌詞だよね。『いとおしく』とか『いとおかし』とか」
「そう? 私は嫌いじゃないわよ。何だか必死な感じで可愛いじゃない。沙羅君にも見習って貰いたいわ」
あーだこーだと好き勝手批評する二人の横で、今の私の気分は複雑だ。
――、演奏が終わる。
『ハァ、ハァ、歓声ありがとう! ……はぁ、実は今の曲は、とある女性の事を想って作った曲なんだ! 不幸だらけの人生を送って来たぼくだけど、その人に救われたから今があるんだ! それこそ、蜘蛛の糸のお話のように! そしてその人は今、ぼくの演奏を聴いてくれている!』
ざわつく観客、『えっ?』という表情になるバンドメンバー(皆女性)、チラリと一瞬だけ蓮華さんは屋上の私達に視線を寄越し、
『さぁ! 今見てくれているであろうぼくの救世主! どうか、どうかぼくと友達になってくれ! 出来るならば今すぐっ、返事を聞かせてくれ!』
すかさずササッとタブレットを渡して来る黒子の格好をした人(屋上の何処に隠れてたのやら)。画面上には『YesオアNo』の表示。
「やっぱりこう来たか。これは彼を変えてしまった糸っちにも責任あるね。生かすなり殺すなり、ちゃんと応えてあげなきゃだよ!」
確かに、ニヤニヤしてるモノさんの言葉にも一理ある。さて、友達、か。先程の歌が『気持ち悪かった』という思いはあるが、ここで無下にするのも……と一考し、Yesのボタンに指を掛けようとして、
ゾ ク リ
射抜くような視線、時を止めるような威圧感に肌が粟立ち指が動かなくなる。
彼のファンのでも椿社長のでも蓮華さんのでもない視線、この距離からでも分かるそれは――蜜さんだ。ジトリと子供っぽく、同時に間違えを許さない暴君的な危険さも孕んだ瞳。
『――でも。兎の嫉妬深く寂しがり屋という面倒臭さには敵わないピョン』
ふとそんな言葉を思い出した私は、
「いやぁ何か今謎の鳥肌が、ってメッチャNO連打してる!?」
とモノさんが言うように、ステージ背後のディスプレイに〈NO〉の弾幕発生させ、大いに観客とネット視聴者を盛り上げた。
「ふぅん、因幡君にも可愛い所あるじゃない。にしても、ファンの方々は憧れの君が振られてガックリ突っ伏してるのに、大盛り上がりね」
「おや、シトシト雨も降って来た、まるで蓮華君の涙のよう。まぁほらシロロっち、蜘蛛の糸も最後は切れるじゃん?」
とモノさんが上手い事を言ったでしょう顔をした、 その時、
『オーホッホッホッ! 茶番は終わりまして? でしたらお次はわたくしの出番ですわ!』
突然、ステージのスピーカーから少女の声。
同時に『キュルキュル』という駆動音を響いたかと思うと――今まで沈黙を守っていた女性型ロボの両目が光りだし、両手が『ゴゴゴ』と持ち上がった。
その掌に腕を組んで立つのは、ヘッドセットをつけた茶栗さんだ。
『な、何のつもりだ!』と叫ぶ蓮華さんに、茶栗さんはニヤリと口角をつり上げ、
『よくぞ訊ねて下さいました! 今からわたくしの野望……〈世界征服〉! を始めるつもりですのよ! 皆様には見守って頂きますわ!』
そう、高々と宣言した。




