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神楽が終わった後は、すぐにもう一つの神事を執り行う。
〈縁切巡〉はグルリと町を巡り、玄関先に立つ町民がその手に持つ【黒い糸(紐でも可)】を切って巡る神事だ。その家の悪い縁を切るという意味合いがある。
未だ猫妖の着ぐるみを纏うぽおる学園長にスク水蜜さんは跨り、町内を練り歩く。その背後からは引き続き縷々子さんやウサギガールズ、卯月さんも『ドンチャン』演奏しながら着いて来て……まさにお祭り騒ぎ。因みにこの蜜さんの仕事は去年まで私がしていたが、御神体である鋏と一心同体の彼の方が明らかに適任なので代わって貰い、なので今の私には特に仕事は無い。樒さんに至っては〈校長打倒バトルロイヤル〉などという謎イベントの為に学園に行ってしまった。
「しかし蜜、昨日もそうだけど、腕を上げたミャ〜」
「当たり前ウサ! 蜜は二週間前に〈因幡一家〉の血を『覚醒』させたから、そこいらの力自慢(笑)には負けないウサよ! 特に猫なんかには!」
「ああん? 草食が肉食に叶うと思ってるニャ〜アアン?」
「このロリババアどもは会う度に同じ遣り取りして……特に学園長はその姿で喋んないで、今は神聖な儀式の最中だよ? ほら、次の家がすぐそこに」
何軒かを巡り、蜜さんの言う通りとある家の前に着いた時の事。玄関先にはしかめ面の老人が黒糸を手に立っていて、
「ふん。伝統ある縁切巡だというのに、鋏様を持つのが余所者だとはな」
――言って、蜜さんに鋭い視線を寄越す。この老人は、昔から神社が世話になっている宮大工の棟梁さんだ。
「おい爺さん空気読めよ」「めでたい日だぜ?」「チョコバナナうまっ」
その棟梁の背後にはニッカボッカ姿の若者三人こと、蜜さんを五色神社へと追い込んだ寺大工三兄弟が。彼らはこの家の人間なのだ。
「何と言われようが儂は認めんぞ。このような巫山戯た格好をした女子供なぞ「偉そうな言葉を吐くなよジジイ」……なに?」
と。棟梁の前に無音で姿を現したのは鋏だ。一瞬過ぎてハサミが少女に変わる瞬間を目で追えた者は居ないだろう。鋏は腕を組み、逆に棟梁を睨み返して、
「よくもまぁ鋏の前で蜜を貶せたものだなジジイ。脳の衰えが過ぎて鋏に対する恩を忘れたか?」
「恩だと? 確か儂は重い心臓病を鋏様に救われたが、わっぱ、お前にではない。鋏様を騙るならばもっと……いや? 病の事は家の者にも一切……それにその声その雰囲気……あの日神社で祈った時も儂は確かに同じ空気を……ま、まさか、本当に鋏様、なのですか?」
「何じゃ神を疑うつもりか」
と目を細める鋏に
「は、ハハァー滅相も御座いません!」
と即座に土下座する棟梁。少女に平伏す老人。異様な光景だ。
「お、おい爺さん遂にボケたか?」「からかわれてんだよ騒ぎになるぞ!」「いいなぁ」
三兄弟が棟梁を起き上がらせようとするもビクともしない。「宗教こえー」と蜜さんが小さく呟いた。
「蜜は鋏の持ち主っ、鋏を十全に扱えるのは蜜の他になく、逆もまた然りっ。蜜を貶す事は鋏を貶すと道義というのを忘れるなジジイ!」
「ハハー!」
と地面に額を擦り付ける棟梁に、蜜さんは視線を合わせるようにしゃがみこみ、
「そんなわけでお爺ちゃん、長生きしてねっ(キュピリン☆)」
と微笑えんで、チョキリ、棟梁の手にあった黒糸を切った。
「ありがたやありがたや!」「おい爺さん涙塗れで酷い顔だぞ」「なにわともあれご苦労な五色神社! 応援してるぜっ」「あれ?桜髪の女の子は?」
と、まぁ。このような具合に、五色神社は地域と密接に繋がっているのである。ここまでの狂信者の方はそう居ないが。




