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「少しの変化で他人からの評価って大分変わったりするのよ。ちゃんと糸っちの顔を見た事無い男子生徒らがチラチラ見て来るのはそれさ。今や糸っちの男子からの評価は『女子からの恋愛相談が評判の根暗巫女ん』から『クール巨乳の美少女根暗巫女ん』になったワケだ」
「そんなあだ名初めて聞きましたが」と目を細める私。縁糸を見たくないが為に俯いてたのに、まさかそれがこんな、
「『こんな面倒臭い事になるとは』って思ってそうだね、糸っちらしいけど。……で、今一番の視線は、最近転校して来た『あの子』からだよねぇ」
モノさんが鞄から取り出したタブレットに映っていたのは、どこぞのバンドのスタジオ演奏動画。再生数も数百万を超えている人気バンドのようだ。
「ほら、このギターボーカルの子。まさか彼が、ここまでのし上がるなんてねぇ」
「その口振りからして、この方はモノさんのお知り合いですか?」
「え? いやいやほらっ、椿建設の蓮華君だよっ。ひと月前横浜で絡んで来たっ」
「……?」「首傾げられたっ」
と大仰なリアクションを取るモノさんを見て、何となくだが思い出す。確か、黒縁だらけの男性だったか。
「糸っちが願掛けしてあげた後、彼は今のバンドメンバーと出逢ったみたいでね。『漸く人との繋がりが出来てくれた』と母親の椿社長も喜んでる」
相変わらずの情報収集力だ。……にしても、『また』私は人の人生に横槍を入れてしまったらしい。あの時、よせば良いのに私は、彼に友情の縁こと黄色の縁糸を渡してしまった。善意で人に縁を授ければ、良くも悪くも碌な事にならないと昔懲りた筈なのに。
「蓮華君はクラスが別だけど、廊下ですれ違う度に糸っちに露骨に視線送って来てるよね。感謝の言葉でも言いたいのかな?」
「別に要らないんですがね。……そう言えば、昨日下駄箱に件の彼からの手紙が入っていたような。『学園祭のライブ時に屋上に来て欲しい』と。めんどいんで行く気は無いですけど」
「ライブ? ライブって、本人達のバンドも出るっしょや。椿建設バックアップの豪華な野外ライブ仕様で、エリンギジンジャーも踊るよね。今までライブの依頼を断って来たバンドが、一体何を企んでいるのやら……って、そこは行ったげなよ! どう転がろうとネタにゲフンゴフン!」
「――何の話ですか?」
「ウおんッ!?」
と、昨日のお風呂時と似たような挙動で驚くモノさん。……いつから近くに居たのだろう。ウメモドキの樹の下で縷々子さんが、野菜を片手に話に入って来た。私と同じように、巫女の装い。
「ああ、縷々子っちか。その野菜は? ウサギの餌やり?」
「はい、お兄ちゃんから頼まれて。でも何故か皆私を見た途端逃げちゃって……怖がられてるというか……、それよりそのタブレットに映っている男性は?」
蜜さん以外の異性に興味を持ったのだろうか。モノさんの説明を縷々子さんは頷きつつ聞いて、
「うん……ありがとうございますモノさん。彼の事は解りました」
「もしかして縷々子っち、蓮華君に一目惚れ? 彼、見た目は格好いいからねぇ」
「いえ、一瞬引っ掛かる何かがあった気がしたんですが、気の所為でしたね。寧ろ見続けてると腹立たしくなって来て……目の前に現れたら暴行しそう」
「酷いなっ! ……差し出がましい事言うけど、縷々子っちはもっと普通に男の子を好きになった方が良いよ、蜜ちゃん追っかけてないでさ」
「普通……確かに、お兄ちゃんは普通じゃないですからねぇ。男の娘を好きになれ、男の娘を理解しろと。解りましたっ、肝に銘じますっ」
満足気に頷くモノさんと縷々子さんだが、豪快に食い違ってる会話だ。
「皆〜そろそろ準備始めるよ〜!」
という母さんの呼ぶ声に、私達は頷き合う。前を先行する二人を見つつ……ふと、後ろ髪を引かれるような――そう、言葉を借りるなら『引っ掛かり』を覚えた。
針に括られた餌は見えていて、なのに、釣り人に釣る気は見えず姿も見えずで竿を放置状態……そんなやきもきした気分を味わわされてる。釣り人は敵、ではないのだろう。だが性格は悪そうだ。




