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「おお、っはよ〜糸っちぃ。今日は宜しくね〜」
「はい。そういえばモノさん、朝食どうされました? まだでしたら」
「あ〜大丈夫大丈夫、模擬店でお腹膨らませるから。糸っち、時間あるなら外歩かない?」
「はぁ」と私は頷き、玄関にて草履を履く。既に足には足袋、服装は巫女服だ。外へ出ると少し身震い。やはり一一月の朝は寒い。曇り空というのもある。
「そいえばアレ見てよ糸っち、学園の方」「……? 何ですか、あのモビルスーツみたいのは」
この神社からも見える程の女性型巨大ロボが、学園の方に佇んでいる。昨日まで影すら無かったのに。
「どうもロボ研の〈茶栗ちゃん〉が、一晩で用意したらしくって。アレでどんなパフォーマンスをしてくれるのか……今年の学園祭は盛り上がりそうだねっ」
「そうですね」
と相槌打つ私だが、立場上先ずは例祭を成功させなければなので浮かれてられないというか、ロボットに構う暇は無い。
神社――といえば、境内の様子は既に普段と違っていた。本殿や販売所など至る所に施された飾り付けや『急造の舞台』、模擬店が境内内外に幾つも設置されていて……十数年住んだ場所なのに他所に居るようなフワフワした気分になる。例祭は毎年あるのに、この感覚は未だ慣れない。居心地の悪さは、まるで卒業式の校内のようだ。
「この垂れ下がった幕の飾り付け、五色幕だっけ? 普通は仏教の寺に掛けるやつだよね」
「まぁパク……それがモチーフですね。本来、緑黄赤白青という組み合わせが五色幕ですが、ウチのは中心に黒の色を置き、更にその黒の中心に切れ目を入れて暖簾のようにしてるんです。悪縁のイメージは黒……というウチ独自の考えがあるので、悪縁を切るという意味なのだと」
「成る程ねぇ。お、この五色の糸で編まれた吊るし鞠も面白そうな由来がありそうだねぇ。いやぁやっぱ取材は当日に限るよ」とモノさんはメモ帳にペンを走らせる。
「意外に知らない事多いもんだね、五色神社には昔からお世話になってるのに。お宮参りも七五三も地鎮祭も、ウチは全て五色神社なんだよ。ここいらの町民は大体ここの氏神……鋏様の氏子だからねぇ」
五色神社はこの他にもお祓いやら初詣など一年中やる事がある。今の時代、アミニズム――地霊信仰など閉鎖的で古臭いし、そこまであいつ(鋏)に惹かれる所があるのかと身内ながらに疑問であるが、そんな本音を口に出来るわけも無く、「そうだったんですね。今後ともご贔屓に」と無難に返す。
「本音を言うと、五色神社には他所の人間は来て欲しくないんだけどもねぇ。この地域がもっと人里離れた山奥だったら、怪しい集落の土着信仰としてミステリー小説ぽい展開に……あ、他所者で思い出したけど糸っち、最近、学校の男子達からの視線増えたでしょ?」
今の話のどこに他所者要素があるのかという指摘は置いといて、私は返事代わりに頷く。確かに、視線は増えた気がする。原因は不明だ。いつも側にいる蜜さんや鋏がうるさいからかしらん。
「恐らくはさ、糸っちが取っ付きやすくなったんだよ。最近、俯いてないでしょ?」
……確かに。蜜さんが来てからのひと月と少し、顔を上げ彼を眺めて過ごしていた気がする。縁糸の関係で、蜜さんは見ていてストレスが溜まらないし、その造形美から目の保養にもなるしで良い事尽くめなのだ。私にとっての彼は、そう、健康グッズ。




