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「わぁい、汗だく糸さんだぁ」――と、彼がキラリと目を光らせたかと思うと、唐突にタオル一枚の私にひしりと抱き付いて来て、


『ペロリ』「ひぁ」


首筋の汗をひと舐め。思わずはしたない声を漏らす私。

「しょっぱい」と小さな唇から舌を覗かせる彼。


「……当たり前です。というか、いきなり、こんな公共の場で、やめてください」

「谷間を流れる塩のソルトリバーがエッチだね。てか家でならいいの?」

「はい」

「いいのか……」


蜜さんは困惑顔。


「(ガチャ)むむっ? む! 何を抱き合っとるんじゃお前達!」「羨ましいです!」


うるさいの(鋏と縷々子)が来た。私は蜜さんから離れる。


「では蜜さん、私は行きますので」

「うん、少ししたら僕らも出るから、先に帰らないでね」

「あ、それいいな! 私もお兄ちゃんからそんな可愛い台詞言われたいです!」

「縷々子は先に帰ってもいいよ」

「私相手は可愛くない! まぁSなお兄ちゃんも好きですがぁ~」

「全く……蜜は本当に乳のでかい女に目が無いのぉ。母親がでかいからじゃろうが……このまざこんめ」

「へぇ、お兄ちゃんのお母様も大きいんですねぇ、ウチのもなんですよぉ、シンパシー感じますねぇ。いつか挨拶を……てか、寂しいのなら私で満たして貰っていいですからね!」

「分かった。鋏、抑えてて」

「え? ここで!? そ、そのワキワキとした手付きは……いやあああああああああ!!」


私は静かにその場を離れた。

うるさいのは縷々子さんの悲鳴と、私の鼓動音だけ。



「はぁ……デトックスデトックス、心なしかお肌がピチピチになった気がするよぉ~」


と火照った自らの頬を撫でるモノさん。既に外は暗く、月も出ていた。


「よし。それじゃあ皆、解散だね。私とシロロっちは学校に戻るから。また明日ね~」


そしてモノさんらと別れて……その帰路。行きと同じくゾロゾロと一団体が道を塞ぐ中で、私は最後尾にて皆の様子を眺めていた。


「蹴り跳ばされた恨みは忘れてないよ猫ちゃん?」

「ああ、お前あの時の兎か。いやアレはお前らも――」

「縷々子は急に生き生きしだしたウサねぇ」

「お兄ちゃんのおかげですよ卯月様! もぅお兄ちゃんなしの人生は考えられません!」

「チラチラ蜜に秋波を送るな縷々子よ。お前は早く別のまともな良い男を見つけろ」

「安心して妹者、僕が君の為に男を探すよ。まずは適当にネットで『妹をファックしていいぞ』と書き込めばあっという間に返事が――」


それぞれがバラバラに会話してるのに、自然と蜜さんを囲む陣形になっている。ここひと月ばかりで彼の元に集まった、彼に好意的な人達。……私は、既に気付いていた。この息苦しさ、胸の苦しさの理由に。こんなのは、ただの


「嫉妬しちゃうなぁ」


……、気付かなかった、隣に沙羅さんが居た事に。彼は私を見ず、集団を見ている。「何の話ですか?」と惚けるように返す私。


「アレだよアレ。しき姉ぇったら、あんな雌猫顔で因幡さんに擦り寄っちゃってさ」

「いつもと変わらないように見えますが」

「だろうね。本人にもお熱な自覚は無いと思う。でも、双子の弟である僕には解っちゃうんだよ」


そう話す沙羅さんの表情はいつもの飄々としたそれでなく、嬉し気で、寂し気で。


「ぐぬぬ、いつの間にかイチャイチャとアイス食べさせ合ってるし。……あ~あ、少し前までは女っ気の無い僕だけの姉だったのにさ。寝取られて初めて気付いたよ、僕がこんなに独占欲強かったなんて」

「前までは二人の仲を茶化すように、寧ろくっつけようとしてたではないですか」

「冗談で煽り過ぎちゃったよ。幽霊屋敷の時もそうだけど、あの二人は事あるごとに二人きりになるハプニングを引き寄せる。離そうとすれば逆に反発するゴムのようで、気付けば今の有様さ。……ときに糸さん、あの二人には運命の糸って奴、見える?」

「……、そんな非科学的なもの、見えませんって」


と顔を逸らす私だが、じっとりとした視線を横から感じる。本当に彼は私の力を蜜さんから聞いてないのだろうか。


「そ。しかし因幡さんも因幡さんだ。彼の天然女たらし振りには戦々恐々しちゃうね」

「それはもしかしてギャグで言ってるのかピョン?」と、今度は卯月さんが隣に瞬間移動して来て、「ほら、これあげるウサ」と私達に棒アイスを配る。店も無いのにいつどこで手に入れたのか。

「わぁい流石は年長者っ、太っ腹っ」

「おだてても何も出ないウサよ。それより沙羅君、蜜には変な女遊びとか教えないでね。あの子をおかしな道に進ませたくないから」

「酷い言われようだなぁ。あ、そういえば前に『ウチは学園だから皆一八歳以上だよ、エッチOKだよ』って教えちゃった」

「嘘教えるなピョン! 皆高等部生でしょ!」

「そもそも、僕はそこまで女の子にだらしない男じゃないって。生まれの島で唯一の若い男である僕が『島の長』に産めや増やせやと言われてる背景があって……いや、それとは別に、単純に、僕は好きな娘達と最期まで一緒に居たいだけなのっ」

「女を騙す男は皆そう言うウサッ」

「過去に何があったのさ……。というか、それを言うなら卯月さんだって、因幡さんにウチの長と似たような事望んでんでしょ? ウチの肉食猫娘が本気になったら、そっちの草食ウサギは逃げられんよ?」

「蜜の女は卯月の審査を通った娘しか認めないつもりピョン! あの阿呆チビ猫と同じ考え何てあり得ないっ」

「この老害めっ」


と言い合いをしながらポコポコ叩き合う二人。しかしすぐに「覚えてろぉ」と沙羅さんが半泣きで前の集団へと消えて行く。


「全く……蜜に友達が増えるのは嬉しいウサが、よりにもよって面倒臭い性格だらけの〈猫〉の血筋と仲良くなるなんて……先が思いやられるウサねぇ糸ちゃん?」

「いや、急に同意を求められても」


そうこうしている内に、五色神社の石段が見えてくる。溶けかけのバニラアイスを必死に消化していた時、


「でも。兎の嫉妬深く寂しがり屋という面倒臭さには敵わないピョン」


ポツリと卯月さんが呟く。


(……蜜さんの嫉妬する姿はどんなの光景なのだろう)


ぼぉ~っとそんな事を私は考えたが、今の姿からは想像も出来ない。同時に、悪趣味だなと思い直し、直ぐに頭を切り換える。ふと目を落としたアイスの棒。そこには〈当たり〉と印刷されていた。



「糸さん寒そうだね、パーカー貸したげるよ」

「蜜! 鋏も寒い!」

「お兄ちゃん私も!」

「あ、アタシは……」

「君らは裸でも平気でしょ。糸さんは繊細なんだから」

「しき姉ぇ前に赤道直下寒泳したよね?」

「糸ちゃん愛されてるウサねぇ」


そんなやり取りをしつつ神社の鳥居を潜ると――【ライオン】が居た。


ライオンは此方を確認した瞬間「え?」縷々子さんへと飛び掛かって行って――

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