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「悪ガキがそのまま大人になったみたいな先生だねぇ」
とモノさんが溜息を吐き、
「あっ」
と思い出したように持っていたタブレットを弄り出して、
「厄介事といえばさ、樒っちも糸っちもさ、コレ、憶えてる?」
モノさんが見せたタブレットに映っていたのは――『バラバラになった人間の死体』。
「うぉ……おいモノっ、いきなりグロ画像見せんなよっ(ギチチッ)」
「イタ! タオル越しにおっぱいねじらないでよ! 違うのほら、よく見て、断面とか散らばってる布片とかさっ」
指でズームにされた画像をよく見ると……配線やらギアやら……これは【機械】? それにこの黒い布片には、確かに見覚えが……
「ああ成る程、ひと月前に学園にテロって来た黒装束の奴らだなっ。アレか? あいつら全員ロボットだったってのか? 確かに殴った時に違和感あったが」
「そ。モノさんが秘密裏に手に入れた情報によると、ね。で、警察に連行された際に証拠隠滅の為か全員自爆したんだってさ。怪我人も被害も無いっぽいけど……凄い技術だよね、ロボット兵だなんて」
「近場でこんな真似出来る奴が居るとすりゃ『ガチャリ』お、丁度良くおいでなすった」
樒さんが首を動かした先(サウナ出入り口)には、「うわ温っ……て、何か用?」と眉を顰めるシロロさん。後ろには当然、沙羅さんも。
「お前、コレ、心当たりあんだろ?」
「ちょっと樒っちッ、ストレートにシロロさんを犯人扱いし出すのはどうかと思うよっ」
「気にすんなモノ、こいつ基本的に悪の科学者だから」
「失礼ね、私は正義の科学者『『ギャアアアアア!!!』』……あら?」
まだ開かれたままの出入り口から唐突に聴こえた断末魔は、複数の若い男性のものだ。
同時に『ゴンガラガンッ』と木桶が崩れたような反響音。
どちらも――昔からある銭湯らしく上部の空いた仕切りを隔てた――隣の浴場から聴こえたと思われるソレで、
「ああ、覗き行為をしようとした男子生徒らに『めっ』てやってたのよ。【あの子達】を使ってね」
羽音も無くパタパタとシロロさんの頭上に降りて来たのは、メタリックカラーな二匹の小蝙蝠。
「今日、学祭準備で余った部品でちょちょいと創ったのだけれど、私の安全を護ってくれる優秀な子達よ。ある時は髪飾りに、ある時は鉄をも貫くウォーターカッターを搭載したキリングマシーンと化すわ。ま、流石に男子生徒らには威力を抑えて、ね」
と妖しく微笑むシロロさん。最早『めっ』では無く『滅ッ』な制裁方法である。
「ちぇっ、僕は男湯で良かったのに。上から石鹸の投げ渡ししたかったな〜」
「嘘おっしゃい変態(沙羅)、ただ女湯覗きのスリルを味わいたかっただけでしょう」
「いいからこっち来てこれ見ろよ悪の科学者っ」
と樒さんに怒られた二人は、渋々タブレットを覗く。
「ふぅん……成る程、あの時の、か。樒、コレが私の仕業だと? 確かに、現代の停滞した科学力でこの数歩先を行く水準の仕事をこなせる人間、世界でもそうはいないでしょう、私は余裕だけれど。でも、そもそも私がテロる理由、無くない?」
「そうか? お前なら創ったロボの性能検査って名目でやりそうだがなっ」
「(ポンッ)成る程その手があったわね」
と手を打つシロロさんに樒さんが呆れ顔を向ける。
「ま、シロロさんが犯人説は薄いんじゃない? 基本僕と一緒に居るからそんな暇もないだろうし。あ、それよりモノさん、明日の事なんだけど――」
沙羅さんは「な、なんだよ?」と挙動不審になるモノさんを手で招き、二人は少し隅に移動する。
明日、報道部であるモノさんは一日中神社と学園を走り回って取材――インターネットチャンネルで生放送等――をするらしいのだが、そのカメラを持つのは沙羅さんとの事で、その打ち合わせ関係だろう。
そんな二人の様子を、シロロさんは一瞥するのみで、特に嫉妬に駆られてる様子も無く、
「で、犯人だっけ? 犯人が近場の人間なら心当たりが無い訳では(ガチャ)「あ! ここにおりましたのね白銀シロロ!」「シツレイシマス」――ん?」
突然私達の目の前に裸体で現れたのは、小柄な眼鏡茶髪少女と、青髪と球体関節をあらわにした如何にもなアンドロイド美少女。
眼鏡少女の方が勝気な顔付きでシロロさんを指さしてる様子から、どうもシロロさんに用が……、……何だか先程から落ち着かないなここも。何の為に移動したのかしらん。
「あら、茶栗さんにアクアさん、何か用? というか茶栗さん、お風呂に眼鏡とか曇って大変じゃない?」
「オーホッホッホ! わたくしの眼鏡は曇らない特別製で……ってそんな事はどうでもいいの! これは宣戦布告ですわ! 明日、私の部の展示を見に来なさい! 度肝を抜かせて差し上げますわ! ……し、樒様も、良かったらおいでなさって下さいね!」
「オサワガセシマシタ」
要領を得ない言いたい事だけを叫び、茶栗さんとアクアさんが去ろうとして、
「おやおや? 騒がしいと思ったらアクアちゃんじゃない。オッパイ膨らんだ?」
「ア、サラサマ……マスターガチョウセイヲ……ヤ……ツツカナイデ」
「こらぁ白錆沙羅! いつもウチのアクアにちょっかい出さないで下さいまし!」
「沙羅っちはまた見境無く色んな娘に手出して!」
今度こそ、二人は(逃げるように)去って行った。
「いつも楽しそうな中等部の三年ちゃん達ね。で、明日は見に行くんでしょ? 樒信者の茶栗さんの為にも」
「あまり気は進まねぇがな。――さて、そろそろ出ようぜ、流石に汗塗れになって来た」
言って、樒さんがハンドタオルで汗を拭う。……改めて見ると、惚れ惚れする程に引き締まったプロポーションだ。毎日他人の為に走り回るヒーローのような彼女の為に最適化された肉体。私のように運動しないだらしない可愛げない体つきとは真逆だ。
「でも小さい方が感度良いって言うし」「た、確かに聞いた事が……ってそれどういう意味だよ沙羅っち!」「ごめんモノさん、やっぱ経験から言うと巨貧関わらず感度は同じ位かも」「この野郎!」
あの二人の会話は別として、殿方がどちらを好むかなど、ハッキリとしていて「糸? 行くぞ」「あ。はい」
ボーッとしていたらしい。私は立ち上がり、
「(ガチャ)あやや? 今度は蜜ちゃんだ。一人?」「うん、他は後から来る。てか温いなここ」
モノさんの台詞に、私は顔を上げる。
「蜜ちゃん、ワイルドで格好いいけど、女の子なんだから腰だけじゃなく胸にもタオル巻こうよぉ。樒っちですらオッパイ隠してるのに」
「ですらってなんだよ」
「だって動き辛いし……(ジロジロ)」
「お、おい蜜、そう露骨に女の身体見比べてんなよっ」
「因幡さんはお前の身体興味ねぇよ」「私は構わないけど?」
「沙羅もシロロも黙ってろ!」
そのまま樒さんも逃げるように出て行って、他の人もそれを追う。サウナ室に居るのは私と沙羅さんだけ。




