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「わらわらと団体が来たと思ったら……」「やっほ〜みんな〜」
大浴場の一番奥にある湯船に浸かっていたのは、呆れ顔のシロロさんと声を響かせるモノさん。この二人も『学園に泊まる組』のようだ。皆掛け湯で身を清め、二人の居る湯船になだれ込む。
「ふぅ……なんか僕らいつもお風呂に入ってるね」
お風呂は毎日入るものだろうに、蜜さんの言いたい意味は解らないがその話題には触れない事にした。
「糸さん糸さん、おっぱいがいっぱいだねっ」「そうですね」「ま〜た二人でコソコソと――な、避けた!? 学習したね蜜ちゃん!」
皆でお風呂に入ると毎度感じるこのデジャヴは一体。
「それより糸っち、あっちに居る蜜ちゃんにそっくりな幼女は? 鋏ちゃんとは別の真の妹さん?」
「妹は私です!」
「ぅおっ何か来たっ」
と縷々子さんの強襲にビクッとなったモノさんに事情を説明すると、
「蜜ちゃんの周りには変な子ばかり集まるなぁ」
と……気付けば少し私達から離れウサギガールズらを雑誌後ろの怪しい商品の購入者写真の如く囲っている蜜さんを眺めたままそう呟かれた。自らも含めての発言だろう。
「ふぅん、エリジンの新メンバーね。見ない顔があると思ったらそんな経緯があったのか」と話に混じって来る樒さん。沙羅さんとシロロさんが二人の世界を作り始めたので避難しに来たのだろう。
「よろしくな縷々子っ、お前が蜜の妹分ならアタシの妹分でもあるって事だからさっ」
「え、何この人、凄く慣れ慣れしいですっ。貴方、お兄ちゃんの『何』なんですかっ」
瞬時に警戒心を露わにする縷々子さん。ここ数日でいじられ役が板について来た彼女が、よく知らない相手にここまで語気を荒げるなんて。樒さんに揺さぶられる何かを感じたのだろうか。
「おっと、馴れ馴れしいのは自覚してるからそんな喧嘩腰になるなよっ。アタシは樒。蜜とは同じクラスの人間? で、紆余曲折あって蜜の姉貴分になった。まぁ、よろしく頼むぜっ」
「待って下さいっ、訊きたい所は紆余曲折の部分なんですっ。お兄ちゃんと一体何をっ」
「馴れ馴れしいアタシが言うのも何だがお前は図々しいなっ。……悪いがその部分、アタシと蜜が『切っても切れない関係になった』経緯は話せねぇぞ」
「まさかッ、『義姉弟の契り』と偽り無垢で無知なお兄ちゃんにヤラしい事を!?」
「何だこいつ……、まぁ想像に任せるよ。少なくとも、お前が蜜の妹分になった経緯よりはドラマ性あるぜ?」
「ウグゥッ!」
「そうだ! そんなデカイ肉袋をぶら下げる妹キャラなど認めんっ!」
いきなりしゃしゃり出て来たモノさんは置いといて、樒さんにイジメられた縷々子さんは「お兄ちゃああああ!!!」と泣きながら蜜さんの所まで泳いで行った。蜜さんと鋏はうっとおし気な顔をしつつも、頭を撫でたりと彼女を受け入れ慰めてる様子。
「濃いエリジンの既存メンバーに負けを劣らず面白い子だなぁ。何で兄だの弟だの論争してたのかはよく解らないけど」
と腕を組むモノさん。この人本当にジャーナリストなのだろうか。観察眼は鋭いけど何処か抜けてる。
「しかし、珍しいね、樒っちが相手に意地悪言って意地っぽくなるなんて」
確かに珍しい。樒さんもまた、縷々子さんに揺さぶられる何かを感じたのかも。
「ぅぅん……何でだろうな。よく解らんが、引いたら負けだと思って柄にもなく感情的になっちまった。……んだよ、んな物欲しそうな顔しても、お前にも話さねぇからなっ」
「ちぇっ」
と、モノさんは興味を失ったのか、湯の中に沈めていた防水タブレットを取り出し、「ねぇ、低温サウナ行かない?」と訊いて来た。
「ああ」
と樒さんが頷き、私も断る理由が無く静かな場所に移動出来るならと思い、湯船の縁に畳んでいたタオルを手に取り立ち上がり正面を隠す。
サウナ室の前に着き、手前に重ねられた備え付けのバスタオルを体に巻く。モノさんが戸を引くと、むあっとした生温い空気が後ろに居た私の裸体を撫でた。
「お邪魔しまぁす」「邪魔するなら帰れ」「すいません! ってアレ? 尾裂狐先生?」
先客が一人、我がクラスの担任だ。狐の体毛のような長髪を後ろでまとめ、タオルを巻き、腕と脚を組んだままダラダラと汗を流している。
「早く戸閉めろよモノ、熱気が逃げるだろ」「アッハイ。うわヌルっ」
三人で中に入り、タオルの敷かれたベンチのようなスペースに腰を掛ける。低温とはいえ、徐々に胸元に汗が吹き出して来る。
「尾裂狐姉ぇも学校からそのまま来たのか?」
「あたしは毎日来てるぞ、近くに住んでるからな。ってか樒、先生って呼べよ」
「いいじゃねぇかっ、何か尾裂狐姉ぇにはシンパシー感じてんだからよっ」
「キャラ被ってるからなぁ」
とモノさんがボソリと呟いた。
「ったく、お前ら学生は気楽でいいよ。あたしら教師は学祭が急遽前倒しになって、事務手続きやら各方面への対応ですげぇバタバタしたんだから」
「生徒に愚痴んないで下さいよぉ。あの校長の下に居る時点で諦めて下さい」
「うぅん……給料は悪く無ぇし毎日が非日常で飽きねぇ点は良いんだがなぁ」
「尾裂狐姉ぇはたまに自分から事件持って来るだろ。前なんて〈ヤ〉の付く実家の稼業の抗争に学園巻き込みやがってっ」
「ま、まぁその時の話は置いといて、取り敢えずはだ。明日は学園やら神社で、つぅかあたしの管轄内で厄介事起こすなよっ」
と先生は捨て台詞を吐き、逃げるようにサウナから出て行った。




