61
〈三〉
「では皆さん、お疲れ様でした、明日は頑張りましょ~」
模擬店や飾り付け等の準備をあらかた終え、他従業員やクラスメイトらに解散を言い渡す母さん。
夕方前の明るい空の下、皆がぞろぞろと鳥居をくぐり帰って行く。クラスメイトらの中にはそのまま帝釈学園と向かい、学園祭の準備に向かう者も居るだろう(泊まり込みも可らしい)。
その集団の中に、木天蓼荘組(シロロさん除く)とモノさん、縷々子さんは居ない。此方側で皆を見送っている。今日五色神社で泊まるから、だと。
「よしっ、それじゃあ皆、先に銭湯に行っておいで。その後は前夜祭でパァーッとご馳走だよっ」
「「はーい」」
と元気に返事し、皆、荷物を取りに本殿隣の住居へと流れ込んで行った。
「糸は行かないの?」
「後で行きますよ。正直、今のあのテンションにはついていけないから、タイミングをズラして」
「相変わらず根暗ってるねぇ。本当に母さんの娘?」
「残念ながら」
と返すと母さんは肩を竦め、その場を離れた。ポツンと、外は私一人だけになる。
『ザッザッザッザ……』
と、それも少しの間だけで、静かだった敷地内に砂利を踏み締める複数の足音が響く。
「おや、人が居ないピョン。来るのが遅かったウサねぇ」
袴を着たウサ耳付き幼女一人と、アメフト選手並に体格の良いウサギコスプレ集団という濃い面々が居た。しかし私の目を奪ったのは、マッチョ軍団ではなく、幼女の方。
その白い髪が、赤い瞳が、あまりに誰かさんとそっくりだったから。
幼女は私の存在に気付くと、ニコニコと近づいて来る。
「こんにちは~ピョン。宮司さん、居るウサかぁ?」
「……中に居ます。どのようなご用件でしょう」
「け、警戒しないでも、怪しい者では無いウサよ。お祭があると聞いて挨拶に来たピョン」
怪しくないと言われたら、『幼女がマッチョコスプレ集団を率いてる』状況が怪しくないワケが無いのだが……普段から【普通で無い幼女】を見慣れてる所為で、警戒心は薄い。
「それと、出来れば祭の盛り上げに協力させて欲しいウサ」
そう言って幼女が背後のマッチョに顎で指示すると、マッチョの一人が私の前に来て、掲げていたモノを『ドスン』と足元に下ろす。――【臼】。
「コレで明日、皆の前で餅を搗いて無料で振る舞うピョン。ウチで作ってる大福【月の萩】は、幻と噂される程の銘菓ウサよっ」
月の萩。確か以前校長や蜜さんが言っていた、一般人はまず口に出来ない美味しい餅菓子だったか。それをウチの為に搗いてくれる……いかにも母さんが喜びそうな、願っても無い申し出だが、果たして初対面な彼女の言葉を信じていいのだろうか。
「失礼ですが、宮司……母とはどういった御関係で?」
「うぅん、実は、宮司さんとは面識が無いウサ。この場所は乙女ちゃんから聞いてね。――蜜の親戚、と言えば解るピョン?」
「……成る程」
と呟き頷く。理解、というよりは納得。道理で先程からウチに居るウサギ達の挙動がおかしいな、と。蜜さん以外には興味も示さないヤツらが一カ所集まり、『三つ指おじぎ』でもするように幼女の方に頭を下げている。
蜜さんは自身を『ウサギを引き寄せる体質の一族』と言っていた。となると、つまりはこの幼女も……
「その様子だと、蜜からこちらの話を聞いてないウサね。まぁ兎も角、蜜の為ならば支援を惜しまぬつもりだから、今後とも宜しくウサよ、糸ちゃんっ」
名乗ってもないのに、既に名前を……どうにもやり辛そうな人だ。校長とも知り合いのようだし。まぁ私にやり易い人など居ないが。




