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転校生である僕には当然、朝のSHRで教壇の前に立ち、自己紹介をするという仕事があるわけで。
「因幡蜜です。糸さんの家でお世話になります。宜しくお願いします」
集まる視線。慣れない経験だ。
『髪なが~』『妖精さん?』『ウサギでしょ』『また美少女』『この学校美少女ばっかだな』
皆ぼそぼそと感想を呟いている。圧倒的アウェイ感。これがもし糸さんと同じクラスで無かったらと思うと……いや、何も変わらなかったな。
「今のシンプルな自己紹介にもあった通り、この無気力系美少女が蜜ちゃんだ。色々とワケありな子だから決して過去は訊ねないように。割れやすい陶器の様に可愛がってくれ」
僕の隣でそう話すパンツスーツ姿の翠玉色髪姉ちゃんは、ここ帝釈学園の校長だ。年齢不詳。この人が僕に目を付けた理由は未だ分かってない。
「じゃあ蜜ちゃん、あそこの右奥の……操觚モノちゃんの隣に座って」
校長が指差すのは、目をキラキラさせたショートカット女生徒の隣。
「では私はこれで。あ、蜜ちゃん、放課後校長室来てね」
手をヒラヒラさせながら校長は教室を去る。指定された席まで歩く僕は、周囲からの好奇の目で何とも言えない気持ちに。
途中、糸さんや沙羅さんと目が合ったりするも、特にリアクションは無かった。
担任である女教師の投げやりな報告が終わり、休み時間に入ると、予想していた通り隣の女子やらクラスメイトらの質問攻め。
何とかそれらを乗り切り、授業をこなしていって……気付けば昼休み。
「蜜さん」と弁当の包みを持った糸さんが僕の席まで来て、
「まみ(なに)?」
「転校初日で周囲に慣れず寂しい時間を過ごすかもと思って来ましたが、杞憂でしたね」
数人の女生徒からお菓子やら弁当のオカズを突っ込まれてる僕を呆れた表情で見た。
「もぅ糸っち、嫉妬してないで君もこっちに座りなよ~ほらほら~」
「私は別に……」
と言いつつ、モノさんに僕の正面の席に押しやられても抵抗しない糸さん。
「しかし羨ましいなぁ糸っち。こんな可愛い子と暮らせるだなんてっ」「僕っこ最高っ」「ドールみたいっ」 「一緒に寝たい爛れた~い」
「だ、そうですよ蜜さん。良かったですねモテモテで」
そんな蔑んだ目で見られても。不可抗力だってばよ。
「僕だってどうしていいか。こんなチヤホヤされるの初めてだし」
「初めて? その容姿で? 気になるなぁ、モノさん気になっちゃうよ~、報道部の血が騒いじゃうよ~。教えて蜜ちゃんっ、前はどんな暮らししてたの?」
「私も気になりますね」
さり気なく同意する糸さん。やっぱアウェイだここ。
「……別に、本当に話せる程『中身のある生活』してなかっただけさ。ノーコメントで」
「「「ミステリアス~」」」
数人の女子は勝手に納得してくれた。モノさんは不満気で、糸さんはどんなワケか悲し気だが。
――ん? 視線を感じ教室の入り口を見ると、そこには数人の男子が屯っていて、此方をチラチラ眺めていた。中には、今、糸さんが占拠している席に座る男子も。
ああ、女子に座られて困ってるって状況かな。退いてとも言い辛いだろうし。糸さんにその事を伝えようと思って……やめた。よく見たらあの男子嬉しそう。糸さんが人気者という話は本当だった……?
いや、可愛い女の子が自分の席に座れば嬉しいのは男の本能か。
「だらしないですよ蜜さん」
「むぐぐ」
不意に、糸さんから口元にティッシュを押し付けられゴシゴシと汚れを拭われる。
「ぷふぅ。ありがとう糸さん」
「気にしないで下さい」
「糸っち、お姉ちゃんみたいだねぇ」
とニヤつくモノさんら。
「お姉ちゃん? ……ふむ、悪くない。蜜さん、喉が乾きました、お茶を買って来なさい」
「「クソ姉貴だ!」」
驚くモノさんらを尻目に僕は糸さんからお金を受け取り、素直に買いに行く事に。
少し、人混みに疲れて離れたかったのもあったし。




