56
皆で王様大富豪(一位が最下位に命令出来るトランプゲーム)等をして散々縷々子さんを泣かせていると、気付けば時計は一二時を過ぎていた。
解散という流れになり、私以外は縷々子さんの、私は結局隣の部屋で寝る事に。
蜜さんのベッドに入り、何となしに携帯を眺める。ギャルゲーアプリしか入れてなかった私だが、最近になって蜜さんに勧められた呟きアプリも使うように。基本、他人の呟きを閲覧するのみだが。
……ん?
モノさんのアカウントが五色例祭の呟きをしてくれてる。普段、自らが取材した面白ニュースを呟いてる彼女のアカウントはフォローワー数も多いので、良い宣伝だ、後でお礼を言おう。
次に覗くのは、蜜さんと鋏のアカウント。どちらもさっい呟いたばかりのようで、蜜さんは今日の出来事を簡潔に無味乾燥に、鋏は相変わらず……。
現在すっかりネット上で話題となった五色神社のマスコットキャラ〈エリンギジンジャー〉は、フォローワー数もそこいらの人気アイドルより多く、テレビ出演のオファーや芸能事務所関係者が神社に直接名刺を渡しに来る――全て断っているが――程度に注目を浴びる存在になったのに……本人らにはどうでも良い事らしく、携帯を与えられた鋏は暇さえあれば蜜さんに『○○が今すぐ欲しい』だの『○○我慢出来ない』だの一八禁レベルの呟きをしている。
神社のイメージにも関わるのに、母さんは気にしてないようだし当の蜜さんも『ハイハイ』と受け流しているだけだ。まぁ、元から五色神社に厳格で硬派なイメージなど皆無だけれど。
「ふぅ」
と私は息を吐き、携帯を枕元に置いて天井をボーッと眺める。樒さん宅に始まり、面接、買い物、そして縷々子さん宅……今日は一日が長かったように感じる。
『ピロン〜』――呟きアプリにメッセージが送られた着信音。相手は蜜さんで、ただ一言『おやすみ』。
……だから、アプリを通じて私にメッセージをやらないで欲しいと何度も……。フォローワー数が多く基本一般人には返信しない彼にそんな事をやられたら、嫌でも私に注目が行くだろうに、全く。
呆れつつ私は彼に同じメッセージを返し、瞼を閉じる。頬が少し緩んでいるような自覚はあるが、原因は分からない。
そのまま次第に、意識は落ちていって――
◆◆◆
その子を見た瞬間、私は動けなくなった。
原因は分からない。沢山有り過ぎるから。
世を不公平と思う程の可愛らしい容貌に見惚れてなのか、サラサラの綺麗な白髪に目を奪われてなのか、それか、指から伸びる〈赤い〉……
その子は母親と手を繋いでやって来た。ニコニコと陽のような笑顔。余程母親が大好きなのだろう。
それを見た私は、予感を感じ取っていた。体験した事の無い感覚。込み上げて来るのは『不安』。
私はすぐにその場を離れた。抗えない運命的な何かを予感し、怖くなって逃げたのだ。
その行動で齎された結果は……。
◆◆◆
『ギシリ』
ベッドの軋む音と妙な圧迫感を覚えた私は、それが原因でか目が覚める。
「「…………」」
蜜さんが居た。蜜さんが私の上に居た。布団越しに私に跨っていた。微睡んでいた意識が一気に覚醒する。
「あ、ごめん、起きちゃった?」
と囁き声で確認して来る彼。常夜灯で淡く橙色に照らされたシルエット、悪戯っぽい蠱惑敵な微笑み。
「驚かせないで下さい。何か用ですか?」
「夜・這・い☆」
ハッキリ答える蜜さん。だが私は動揺しない。『いつもの』事だから。
見下ろしていた彼は掛け布団を少し捲り、ワイシャツ越しの私の胸に顔を埋める。
これだけだ。これ以上の事を、蜜さんは求めて来ない。たまにこうして夜に私を抱き枕扱いしに来る。曰く、『欲求を満たす』為だとか。確かに『離れるな』とは言ったが、夜に来いとは言ってない。
「ん、確かに驚かせたようだね。心の臓がバクバク鳴ってるよ」
……動揺などしない。
「ここ、どこだと思ってるんですか」
「僕の家だよ〜」
と足をパタパタさせる彼に、隣室に実妹と鋏が居るという緊張感は見られない。私の反応の方がおかしいと錯覚する程に、普通。ふしだらな関係だと思っているのは私だけ。
「まぁ実の所、昔の夢を見ちゃってさ。不安になって糸さんの顔を見に来たの。今の生活の象徴である、糸さんにさ」
「私でなくとも、隣に鋏が居るでしょう?」
「あいつはもう僕に寄生した僕の一部みたいなもんだから。見た所で気分転換にはならんよ」
褒め言葉なのか何なのか、一応は我が家の家計を支える御神体なのに酷い言われようである。
「あ〜、このまま寝ちゃいそう」
とモゾモゾ私の胸で顔を擦る蜜さんにむず痒さを覚えつつ、
「こんな場を見られたら不味いでしょう、気が済んだら戻って下さいね」
「はぁい。……あ、アレ僕の制服じゃん、着てたなぁ」
壁の方に顔を向ける彼に、私は思った事を訊く。多分、過去を訊ねるのはこの時が初めてだ。
「何故、縷々子さんと同じ高校の、しかも女制服がここに? 食器の件もそうですが、貴方はこの家でどんな生活を……」
「あ、訊いちゃう? 男の過去を詮索するなんて野暮……だけど、まぁ、糸さんだからいっか」
少し釈然としないが、私は黙って聞く事に。




