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因幡家に到着。一般的な二階建ての家屋。中へ招かれ、ダイニングへと案内された。床にはピョンピョンと跳ね回る数匹のウサギ、放し飼いしてるらしい。
「すぐに夕飯の用意するわね。ほら縷々子、お客様用の食器、吹いた後に並べて」「はぁい」
手伝うと言った私達だが二人に遠慮され、ダイニングテーブルの椅子に座らされる。その間、鋏は興味深げにキョロキョロし、蜜さんは落ち着かないのか足下にやって来たウサギを拾い上げて撫でつつソワソワ。
「……あれ? こんな食器、ありましたっけ?」
それは、縷々子さんが箸と茶碗を蜜さんの前に置いた時の事。「どしたの縷々子?」と蜜母さんも此方を見る。
その食器は、お客様用というには使い込まれたような草臥れ具合で、そして、縷々子さんの席に置かれた食器類との色違いのように見える。
「確かに……見た事無い食器、だねぇ。と、兎に角変えないと」
「ですよねぇ」
「これで」
「「っ!?」」
と、蜜さんの返事に泡食う二人。今日初……いや、数年ぶりの因幡家での会話(?)は、とてもぎこちない物だった。
夕食――牛タンやらけんちん汁――が並べられ、食事が始まる。
「急な事で、こんな物しかお出し出来ず」
と苦笑する蜜母さんに、「気にするな」と偉そうな鋏。その少し濃い目な味付けは、蜜さんの作る料理と似ていた。
「ときに、この家の主はおらんのか? 挨拶をしたかったんじゃが」
「ああ、御免ね鋏ちゃん、亭主なら今仕事で日本に居ないんだよ。よく分からないけど『世の為人の為』と慈善活動をしに海外を飛び回ってるんだ。恥ずかしながら、周りからは〈天の使い〉何て言われてるよ」
「天の使い、な」
と目を細めた鋏は、蜜さんと目を合わせ、頷き合う。何の確認だろう。
「しかし鋏さん、何故父さんに挨拶を? ま、まさか! キャ~! 五色家と因幡家で繋がりを作ってゆくゆくは……と、そういう事ですか~?」
「うん? まぁ、両親に挨拶は礼儀、なぁ蜜?」
「知らんがな。何か話が食い違ってる気がするけども」
「……そういえば、鋏さんは設定上〈五色神社の御神体〉だけど、実際は蜜さんの妹さんなんですよね? お二人はどういった経緯で五色神社に居候を?」
『そんな設定あったな』というように「ぁ~」と宙をあおぐ鋏。どうにも説明し辛い質問だ。
真実は話せないだろう。どうあっても、因幡家も関わる話になるから。
「それに二人は余り似てな」
「縷々子、そこまでだ。彼方が困ってるだろう?」
「あ、すいませんでした図々しく……」
としょげる彼女。蜜母さんの気遣いで難を逃れられたが、蜜母さんも蜜母さんで娘の高校の制服を着て外に出るような変わった人なので安心出来ない。
「全く。無気力系女子だったのに、いきなりハシャイジャッテこの子は」
「むっ、母さんも何を一人でクールぶってっ。エリジンの存在を初めて知った時とか家事ほっぽり出して一日中動画見てた癖にっ。『二次元から天使が飛び出した』なんて色めいてた癖にっ」
「うるさいニワカエリジンめっ」
喧嘩を始めるそんな二人を、蜜さんは微笑まし気に見つめていて……同時に、私の中の『重り』も、少し軽くなったような気がした。
取り戻せない物もあるけれど、別の形で埋めて行く、そんな方法でも間違いでは無いのだと確認出来た夕食だった。
……、後になって思えば。
この時もう少しだけ、互いにもっと踏み込んだ会話をしていればどうなっていただろうと考えてしまう。
誤魔化し難を逃れ問題を先延ばしにしなければ、未来は変わっていただろうか。苦労せずに済んだだろうか。
全ての縁の結末、つまりは〈未来視〉という私には無い力を持つ鋏。『アレ』が鋏の望んだ展開なのだとしたら……鋏の本心は、何処にあるのだろう。




