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――ふと、食事の音が正面から消えた事に気付いて顔の向きを戻すと、蜜さんはどこか苦笑するように、寂し気に隣の席を眺めていた。


そこ居たのは母と男の子の親子連れ。どちらも温かな笑顔で、幸せそうで……何となく、今の蜜さんの思いが分かってしまう。


自身の事を語らない蜜さんは、当然、五色神社に来る前の過去も語らない。

だが、想像は難くない。

『繋がりの無かった』蜜さんに、都合良く『家族との繋がりはあった』何て事も無く……その為に彼は、家族の愛情を殆ど知らない。今更、代えなど無い。


「……、……」


私は、何も言わず身体を前傾にのばし、蜜さんの口元に付いたクリームを紙ナプキンで拭う。それこそ、だらしない〈弟〉にお節介をかける〈姉〉のように。

キョトンとした顔で私を見る彼。彼を見る私。……相も変わらず綺麗だ。容姿もそうだが、何より、縁糸の在り方が美しい。

本来の無秩序に身体から発生してるソレでは無く、彼の場合、縁糸が五指に綺麗に纏められている。ただでさえ少ない縁糸――他と違いその都度発生する――を鋏が整えているのだ。こんな毛玉だらけの世界で、蜜さんの姿だけはハッキリと認識出来て、目に優しい。

今の私は彼に心から癒されている。拠り所といってもいい。だからこそ、『償わなければ』ならない。


「ムググ、何さ糸さん。有難いけど、周囲の注目が強くなってるよ。目立つ行動なんて、らしくない」

「汚したままで居られる方が恥ずかしいです」


いいのだ、私の事など気にしなくても。貴方が『喪った物』に比べたら、私の事など。

喪った物の代えになるのは無理だ。けれど、 別物でも良いのなら、貴方の、目の前に居る女で――


「あれ? 面接官さん?」


そんな赤面モノの台詞を吐こうとして、真横から聞き覚えのある声。自然、首はそちらを向いていた。居たのは二人の女子高生。


「やっぱり面接官さんですね。良かった、私、連絡先教えてないなぁって」

「縷々るるこ? もしかして、この方がさっき言ってた神社の?」

「そうそう。で、そこの神社にはすんごいビビッ! て来る人が――おおぅ!? ま! まま、まさか! そこにおわす巫女服の御方は!!」

「お、落ち着きなさい縷々子、店内よ。……ほら、先方も、何とも言えない顔してるから、早めに挨拶なり連絡先教えるなり済ませて離れましょう。迷惑になるわ」

「そ、そうだねっ。ええっと、自己紹介が遅れましたっ。

『因幡』縷々子ですっ。電話番号は――」


私は、彼女の話が終わるより先に正面の彼を見た。目が合った彼は、今までで一番の苦笑を私に向けて、


『い も う と』


口パクで教えてくれた。

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