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電車で市内まで行き、馴染みの神具店等を周り終わると、気付けば昼過ぎ。
時間も丁度良いので、母さんから貰った紙切れもとい食事券を持って、ファッションビル内にあるケーキバイキングの店へ。
席に着き、二人でひと息吐く。チラチラと周囲から(巫女姿の)蜜さんへの視線を感じるが、本人に恥じらいの気持ちは無いようで気にもしてない。
件のネット活動によりファンも増えてるようで、ここに来るまでにも数人からサイン・写真撮影を求められていた。母さんの戦略通り、蜜さんは動く広告塔として十分に機能している。
「にしても二人きりなんて久し振りだね。デートも初めてじゃない?」
「でしたっけ。まぁ毎日家で顔を合わせてるのに、デートも何も無いと思いますが」
我ながら女の癖にロマンも何も無い言葉だが。
「素っ気ないねぇ、糸さんらしいけど。しかしさ、祭で使う神具の注文なんて、それこそ馴染の店なら電話一本でも良かったんじゃ?」
「馴染みのだからこそ義理があるんですよ。ましてやそれなりに歴史のある神社ですからね、自然、関わる人間は多い。面倒臭いですが、祭の前となると挨拶回りもこの先増えて行きます。蜜さんや鋏もかり出されますよ」
「神を挨拶に向かわせるのか……」
と困惑する蜜さんの意見も最もだが、鋏の正体を話した所で納得する人間はまず居ない。ならば普通に鋏を巫女として紹介した方が早いのだ。神<金を持った人間である。
二人でケーキとドリンクを取りに席を立つ。蜜さんは子供のように目をキラキラさせ全種類を一つずつ皿に載せ、一方の私は烏龍茶だけを取って席に戻った。
「何しに来たの?」
と、まぁその通りな事をケーキを頬張りつつ訊いてくる蜜さん。
「ダイエット中なんです。最近服がキツくなったような気がして」
「ああ、それ『胸が大きくなっただけ』だよ。毎日お風呂で見てるから分かるもん」
……。そうでないかと思わないでも無かったが、私より私の身体に詳しいのはどうなのだろう。
「無理なダイエットは成長期の女子にゃ愚行だよ。はい、あ〜ん」
と、一口大モンブランの刺さったフォークを私の口元に突き出す蜜さん。
少しの逡巡の後……素直に受け入れる。口の中に広がるネットリした甘みとリキュールの香り。単純な感想しか出ない。お風呂発言だのあ〜んだので、周囲の視線がより濃くなったように感じて、味など半分も分からないから。
フォークを引いた蜜さんはクスリと微笑み、
「糸さんってさ、僕のフリとか要求、ほとんど断らないよね」
「……、別に、出来る事はしているだけです。あまり調子に乗らないように」
――虚を衝かれた。彼の言葉が的を射ていた所為だ。
〈蜜さんの言う事ならば(他人に迷惑を掛けなければ)何でもきく〉
彼が我が家に住み始めたその日から、私はそう心に誓っていた。求められれば、応える。
理由を……真相を話せば、蜜さんは『気にしないで良い』と言うだろう、確実に。ただの私の自己満足。これだけで、彼へ全て償えるとも思ってない。でも、出来る事など、これぐらいしかないから。
いっそ――蜜さんの求めるものが何か、分かればいいのに。
「ほらほら糸さん、食べて食べて! パスタもあるよ!」
そんな私の気苦労も知らず、彼はケーキを貪っている。私の前に何個かケーキも置く。
「よく甘い物だけをバクバクと食べられますね」
「最近運動してるからねぇ」
運動。オカルト部での活動を言ってるのだろう。……【彼女】ならば、彼の求めるものが分かるだろうか。
何となく、私は今の話題を続けたくなくってそっぽを向き、黙々と烏龍茶をストローで吸い上げる。
「全く、なんでお前とケーキなんかを」
「まぁまぁ」
ん。あの奥の席、どこか見知った顔があると思えば、モノさんと沙羅さんだ。沙羅さんとは数時間振りの再会となるが、まさかこの店に来るとは。
何やかんやで研修旅行後、二人きりで居るのを見る機会が増えた気がする。ウサギ島にて【縁糸】の力で距離を近付けたのだ、彼女ら『も』。
二人の間に『も』繋がれた【赤い縁糸】。
赤は、白・黄・黒・青と五つある縁糸の一つで、『運命の相手』同士が持つ縁糸。珍しい糸で、切れる事の無いそれの輝きは、力強い。
私は、他人の体から出ている縁糸を視認する力を持っている。便利な能力だと思われるだろうが、私はこんな力欲しくなかった。
他人の人生を覗き見しているようなものだし、昔無邪気で愚鈍だった頃にそれで馬鹿を見たし、何より、この力を通して見る人間の姿は『ほつれた毛糸玉』のようで、気持ちが悪い。
人には何百何千という縁糸がある。人は長い生涯の中、出会いと別れを繰り返し、その度に縁糸はブチブチと切れる。ほつれた毛玉にもなろう。
この力にオンオフ機能は無い。生まれた時から私には、人間が毛玉に見えていた。そして縁糸は人と物とも繋がりがある。結果、私の瞳を通して見る世界は、いつも蜘蛛の巣の中に居るような歪なソレだった。
そんな現実に目を背け、今日まで俯いて過ごして来たとしても、責められる謂れはない。
……モノさんらが此方に気付いてる様子は無い。挨拶はしないでいいだろう、邪魔になるだろうし。




