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「そんなわけで悪いけど、私の代わりに面接お願いッ」
木天蓼荘から五色神社(我が家)に帰って、直後、母さんからそんな頼みを押し付けられた。
「どんなわけですかいきなり。面接なんて立ち会った事も無いのに」
「大丈夫よ、適当にお話しして、ビビッと来た相手を選んでくれれば良いから〜。あ、最低条件は可愛い子ねッ」
「何故私が……母さんの仕事でしょう?」
「色々忙しいのよ母さんもっ。お祭が近いからねっ」
お祭――〈五色例祭〉の事だ。一週間後にある、年に一度の五色神社の祭礼。例祭、つまりは祭神である鋏に関係する特別な日。伝承によると、その日に鋏がこの地に来たのだと。
で、どうも今年は例年より規模を大きくするらしく、それに際して『巫女を一人補充しよう』と先週母さんが唐突に思い付いた。
蜜さんが来て、同時に鋏が正体を現してからというもの、二人のマスコットアイドル化で急に忙しくなった五色神社。漸く人手が増えるという事で、それ自体は助かるのだが……
「じゃあ三◯分後に始まるから宜しくね!」と足早に去る母さん。私はため息を吐きつつ、社務所に行く前に、蜜さんを巻き込もうと彼の元へ向かった。
「はぁ」
と今日何度目かの息を漏らす私(一応面接という事で正装? である巫女服を着ている)。
これで三人目。……整った容姿、落ち着いた受け答え、バイト経験……それなりの粒揃いだったが、母さんのいう『ビビッ』と来る相手はまだ来ない。いや、本来そんな直感で判断するのもどうかと思うが。
次で最後、か。全く、蜜さんときたら居候の癖に鋏とゲームに興じてて協力してくれなかったし。一人での面接がどれだけ大変だったか。
さっさと終わらせよう、そう思うと同時に『コンコン』とノックが。
「どうぞ」
「失礼しまぁす」
「――」
「? 何か?」
「……いえ、どうぞおかけ下さい」
机を挟んだ正面のソファーに座る、恐らく同い年ぐらいの制服姿(帝釈とは別)の女性。
可愛らしい見た目で、長い三つ編みで、ふわりとした雰囲気で、そして、濁った瞳。
第一印象は『既視感』。私の中の何かを静かに粟立てる――ビビッと来る女性だった。
「あっ、すいません、履歴書忘れちゃいましたぁ」
「……そうですか。とりあえず、いくつか質問を。まず、志望動機は?」
「無いですね」
「無い」
「はい。そもそも、ウチの母さんが勝手にここにバイトの電話しちゃったみたいで。アハハ、何だがアイドルのオーディションみたいですね」
「はぁ。では、貴方自身にウチで働く意欲は無いと」
「私はどっちでもいいんですよ。バイトしても良いし、しなくても良いし。学業はどうとでもなりますから」
随分と適当な人だ。その適当振りは【彼】を彷彿とさせる。――いや、それこそ【彼】と同じで、自分自身に『興味が無い』ようにも見える。
「……学業といえば、その制服は」
「あ、はい。すぐ近くの高校のですね。家から近いのでそこにしました」
と普通に答える彼女。全国でも指折りの有名進学校の制服だ。一芸特化の帝釈学園とは違うベクトルの、有る意味では正しい方向のエリート校。緩そうに見えて頭は良いらしい。選んだ理由は適当だが。
「ご自宅も此処から近いのですか?」
「そうですね、一駅分くらいです。自転車でも来られない距離では――」
と。急に彼女は口を止め、立ち上がった。その瞳は私の背後に向いていて……後ろには、蜜さんと鋏が映るポスター。
「それ、は?」
と唇を震わす彼女。先程までの無気力な様子は皆無で、実に人間らしい狼狽えぶり。
「ウチのマスコットキャラ【エリンギジンジャー】ですが、何か」
「この二人が! ウチの母が言ってたんです、『最近ファンになったアイドルが居る』って! 今までそんなの、一切興味無かった人なのに!」
何やら身の上話が始まった。今面接中なのに。いや、面接中ではよく有る事なのだろうか。しかしテンション高いな。
「ここに面接を受けさせたのも、そのお二人と繋がりを持ちたいが為だったのでしょう! 私は初めて見ましたが、成る程、話題になりそうなオーラがあります! 特に――左の『男の子』が可愛い!」
ドキリと心臓が揺れる。まさか、一目で蜜さんを男性と見抜いた? 現実でもネット上でも、一切バレた様子も無いのに?
「(トントン)失礼するわねぇ」
と、面接中だというのに入って来る母さん。その手にはタブレット。
「糸ぉ、今エリジンのPV完成したんだけど、チェックしてくれない?」
「何故今。面接が終わってからにして下さい」
タブレットの液晶には、鋏を祀る本殿内で歌って踊る二人の姿が。案外ノリノリである。
「いや、一応面接する人にも関係あるのよ。完成したPVは五色例祭の宣伝も兼ねたモノなんだけど、何だか物足りなくて。見てるとやっぱ巨乳担当が居ないからかなと。だから、面接では巨乳の子を選んでその子を新メンバーにしたいなと」
「ひどい選考基準ですね。さっき面接終わった人達は知らないですし」
「そりゃあさっき思い付いたからね」
身内にもサプライズを掛けてどうしたいのかこの母親は――と。真横からの圧迫感に気付いた私。顔を向けると、面接相手である三つ編み少女が食い入るようにタブレットの画面を覗いていた。何故かその瞳は、少し潤んでいて……
「私、やっぱり此処で働きたいです! 明日からお願いします!」
……濁っていたソレに、火が灯った。
いや、やる気があるのは十分だが、既にこの子採用される気満々だ。母さんも何を満足気に頷いてるのか。もう二人で勝手に進めてくれ。




