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「下らない事を言ってないで帰りますよ。そもそも、何故私を迎えに来させて……」
「皆で朝御飯食べようってなってぇ、それなら糸さんも呼ぼうってなってぇ。兎に角入って入って」
手を引いて来る蜜さんの勢いに負け、そのまま室内へ入ってしまう。中は、台所別の1K。既に机を囲む面々。何故だか脳内では『猫の集会』という言葉が過る。
「おう、待ってたぞ糸。はよ座れ座れ(チョイチョイ)」
この部屋の家主こと樒さんの隣に、示されるがままに座る私。相変わらずピョコピョコと謎挙動をする彼女の猫耳と尾だ。
「悪いわね五色さん。蜜『くん』一晩連れ回しちゃって」
そう言って、私のもう一方隣で白銀の髪をサラリと揺らすのは、シロロさんだ。彼女もこのアパートの住人で、隣に部屋を借りているらしい。相変わらず、沙羅さんの隣をガッチリキープしている。
「いえ、私に断らなくても」
「そんな訳にはいかないわ。『彼』は大事なお客様だもの。もしもがあってはいけないし」
……、もういつからなのかは知らないが、木天蓼荘組には蜜さんが男だと知られている。学校内では女性として扱ってくれてはいるが、彼女らが『何故彼に女装を?』と私に一切振って来ないのがまた不気味だ。いや、私に訊かれても今更答えられないが。あの時は勢いというか、何というか。
「はい召し上がれ」
「有難く食えよ」
と蜜さんと鋏(通常版)がテーブルの中心に二つの鍋を置く。台所でもそうだったが、既に彼にとってこの部屋は『勝手知ったるや』なのだろう。
それにしても、この個性的な香りは……明らかに……
「わぁい朝カレーと納豆汁だぁ。まさかの組み合わせだけど僕は好きだよっ。まさに神の味噌汁っ」
「朝からカレーと納豆汁とはおかしな頭してんな」
「服に匂いが付いちゃうわね」
「まともな料理も作れない女どもは黙ってろ」
——沙羅さんの鋭い言葉に静かになる木天蓼荘女性陣。鋏は意外に料理堪能だし、私は温泉卵を作れるから関係ないな。
手慣れたように蜜さんは鋏と共に皆の分をより分け、木天蓼荘組と息を合わせて『いただきます』をする。私はそんな蜜さんの行動を、一人眺めていた。
(良い事だ、蜜さんに仲の良い相手が増えるのは。過去に苦しんだ分、充実した日々を送って欲しい)
その気持ちに偽りは無い、筈、なのに。何故こうも、今、息苦しくって——
「クァァ〜……はふぅ」
「あら蜜くん、さっきから欠伸が絶えないわね。樒の奴、そんなに寝かせてくれなかった?」
は。
「何言ってんだシロロ。『枕が変わると寝付きが悪くなる』、そうだったよなっ?」
……少し頬の赤い樒さんに、目をこすりつつ頷く蜜さん。そういえば、彼らは昨晩何をしていたのだろう。蜜さんからは『遊びに行ってくる』としか聞いてない。
「どうした糸、箸が進んどらんぞ(ニヤニヤ)」
このガキ。
「ああ、五色さんにも報告しないとね」と私や気を遣ってか沙羅さんが昨晩の詳細を語り出す。




