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部屋に戻るのと、糸さんの裁縫作業が終わるのは同時だった。


「お風呂長かったですね」

「色々あってね。制服、ありがと」


受け取ったブツは、ちょっと前までボロボロだったモノとは思えないぐらいの仕上がり。


「汚れは私ではどうしようもないので、帰ったらクリーニングに。……では、私もお風呂に行って来ます」

「背中流そうか?」


凝ったように肩を回す糸さんを見て、ポロリと僕の口からそんな言葉が出る。


「今入ってきたばかりでしょう?」

「そうだけど……ほら、お礼っていうか、入り足りないというか(もにょもにょ)」


本当はもうウンザリするぐらい堪能したんだけど。


「……、まぁ、いいでしょう。鋏はどうするんです?」

「朝まで起きないよ。ヨイショと」


再び寝入ってしまった御神体様をお布団に突っ込んだ後、二人で廊下に出る。……さっきから、彼女のジト目が僕の横顔にチクチク。


「良い事でもありました?」


良い事? そんな受け取られ方をされる顔を、今の僕はしているのか。心当たりは、無いでもない。


「うぅん〜、友達が、出来た?」

「疑問符ですか。その言い方だと、蜜さんがこちらに来てから今日まで、一人も友人が出来てないという事になりますが」

「どうなんだろうね。自分の中では、モノさんらはクラスメイトで」

「……で?」

「糸さんと鋏は――家族だよ」

「……はぁ」


と、溜息を吐かれるのみ。来て数日で家族発言は馴れ馴れしかったか?


「後ろめたい事でもあるんですか?」

「何さいきなり。ないない」

突然家族サービスしだす浮気夫じゃあるまいし、疑り深いお姉ちゃんである。


――その後も、謎の言い掛かりを付けてくる糸さんを受け流しつつ、背中を流しつつ、今日の出来事を報告し合ったりして……


「でも、そう考えると逆にシロロさんが可哀想だよね。あれだけ仲良いのに沙羅さんと結ばれないだなんて。噛ませヒロインみたい」

「貴方が気にしないでも、あの二人は大丈夫です」

「と、いうと?」

「シロロさん、沙羅さん。両者の間には〈赤い糸〉があります」

「ふぅん……って何かデジャヴを感じるよ。赤い糸は一人に一本じゃないの?」

「たまに居るんですよ。【複数持つ人間】が」

「はぇ〜……そんな人は重婚の認められた国に行くしかないね」

「……(ジィ)」

「……?」



そうして研修(?)旅行最後の夜は更けて行って、


――翌朝、朝食会場にて、


「聞いたよ因幡さん、しき姉と温泉に入ったんだって? やっちゃったね。実はウチの一族には、裸を見せた相手と一緒にならなきゃな決まりがあるんだ。そんな訳で宜しくね、おに、お義姉さん」

「んな決まりねぇよぶっ飛ばすぞ!」


他のクラスメイトも居る中で、白錆姉弟に騒がれた。

結果、鋏もギャーギャー喚き出すし、卯月さんは何か普通に隣で朝食食べてるし、


「……(ジッ)」


昨日漸く治めた糸さんのジト目を、再び堪能出来る羽目に。得た物より、喪った物の方が多い気がする研修旅行でしたね。



帰りの新幹線。

次々に移り変わる窓の風景。目に入るは、この先も無縁かもな相手の家々。顔も知らぬ相手の一日を想う。


「何か不思議な気持ち。あっち側に住んでて糸さんと会えない、そんな世界もあったかと思うと」


僕のポエミーな妄想を、


「そんな世界はありませんよ」


糸さんは即否定し、すぐに否定した自らの口を押さえた。


「……それは、とても素敵だね」


僕はそう言って、彼女の肩に寄り掛かり、瞼を閉じる。

もう窓の外を見る必要は無かったから。


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