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【亀姫の湯】というプレートの貼られた浴場の戸を引くと
「ミャ? ウミャ!?」
まず飛び込んで来るのは『青臭い香り』、そして圧倒的な『緑』。
竹林に囲まれた露天風呂が、そこにはあった。
「ひゃっほおおおおおおお!!」「こらこら走らないの鋏、先に体洗うの」
鏡の前に鋏を座らせ、ヌチャリと粘度のある液体を塗りたくってやり、泡立てる。全身を弄る僕の手技にくすぐッたそうに身をよじる鋏だが、いつもやってるんだからそろそろ慣れて欲しい。
泡まみれの鋏は次に僕に抱き付き、全身を使って僕に泡を移す。ヌルヌルが気持ちいい。
「ふふ、全国の父娘もお風呂でこんな温かい触れ合いしてるんだろうなぁ」
「つまがみたらそっとうものじゃな」
お互いの泡をシャワーで洗い流し、いざ湯へ――『チャポリ』。
「ふぅ、空気が澄んでるねぇ。あ鋏、さっきから気になってたんだけど」
「なんじゃ?」
此方に背を向け湯船に浸かっていたその子を「ミギャ!?」抱き寄せ、
「このミルクティー色の【猫ちゃん】、旅館の住人かな?」
バタバタ暴れる猫を鋏に見せる。鋏は
「さぁてな」
と、何故か呆れ顔。
「ふぅん、まぁいいや。それにしても今日の鋏は凄かったねぇ、ズバズバーって」
「ふふん、もっとほめてもいいぞっ」
とドヤ顔な鋏。
「糸さんと合体したら最強じゃない?」
あ、真顔。明らかにテンション下がってる。むぅ、繋げる力と切る力、それが合わされば最強だろうに。
「……、つるぎは、みついがいとまじわるきなぞない」
「身持ち固いねぇ」
感心していた、その時――『ガラリ』――戸を引く音。
「お、仲良く入ってるねぇ『三人とも』」
現れたのは、タオル一枚では隠れきらないムチムチボディな校長。そして、
「ウッピョピョ〜ン! また会ったウサねぇ!」
ウサ耳ピョコピョコお胸ペターンな卯月さん。早過ぎる再会である。
「むむむっ、ふたりきりではなかったのかっ、みつ!」
「二人きりでも入れるってだけだからねぇ」
体を洗った大人二人が湯に入って来る。
「ふぅ……、ああ、驚かせちゃったかな? 実は君達が島から帰って来てすぐ、卯月さんから連絡があってね」
「遊びに来ったピョ〜ン」
言って、僕の片腕に抱き付く卯月さん。これには反対側に居る鋏も
「はなれろめうさぎ!」
と、対抗するように腕にしがみつく。
「キンキンと五月蝿いガキウサねぇ。お前、卯月は駄目でそこに居る【樒ちゃん】は良いのかピョン?」
樒さん? と頭を傾げると、ビクリッ、腕の中に居る猫ちゃんが肩を揺らした。……まさか?
「ニャフゥ〜」
と何かを諦めた様な深い息を吐いた猫ちゃんは、突然、グググッとその体を膨張させていって――十秒と掛からず『形を取り戻した』。
視線の先には、纏め上げたミルクティー色の髪と白い背中。あれだけ動き回ってるのにもかかわらず、その体躯は意外にも、女の子らしい華奢なソレで。
( ……着痩せするタイプというか、意外にも隠れ美乳というか)
はたから見れば、彼女を胡座の上に座らせて後ろから抱きしめているイチャついたカップルにしか見えない体勢だな。
「卯月さん、アタシまだ、蜜に正体をバラしてなかったんすけど?」
「今更大した事実でも無いと思うウサがねぇ」
「まぁ、いい機会だね。そんな訳で蜜ちゃん。白錆樒ちゃんと、ついでに『因幡』卯月さん、二人は俗にこの世界で『妖』と呼ばれる存在だ」




