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〈二〉
翌朝。
朝食を済ませた後糸さんに居間に案内される僕。
特に昨夜の件に触れる様子も無く、
「本当にコレを?」
「はい」
と頷く彼女。
壁に掛けられているのは【ブレザー(女子)】。
コレを『着ろ』という事らしい。
「制服の注文は私がしたのですが、母さんから蜜さんの写真を見せられた段階で貴方を女性と思い込んでしまって」
――この有様か。
しかしママさんが伝票等を見て何も言わないワケが……あるな。
一日で解ったけど、あのママさん『楽しい事』優先で生きてる節がある。
「男子のが来るまで体操服で過ごすワケには」
「いきませんし再注文もしません。……こう見えても私、学校では人気者で」
「え? 何ですその突然の自慢」
「女性が居候で来ると伝えてるのに実は男だったとなれば、貴方に危険が及ぶ可能性も」
「ああ、成る程」
こぇえな転校先。
「まぁ、分かりました。着ます」
「……あっさり、了承してくれるとは思いませんでした」
「別に。男でも女でも、恥も執着も大してありませんし」
「……。着替え、手伝います」
下着はボクサーパンツのままでもいいらしい。
今は女性用のもあるみたいだし。
僕の髪を梳きつつ、鏡にうつる糸さんが言う。
「あの鋏には触れないで下さいね」
「はぁ。神聖な物だから、とか?」
「いえ、過去、盗もうと手を伸ばした不届き者が『落とされた』前例があるので」
何を落とされたのか。
っていうか手遅れなんですけど。
「アレは〈本物〉です。十分にお気を付け下さい。……そもそも私も昨日、咄嗟の事とはいえ何故貴方を本殿へと導いたのか……関係者以外の立ち入りを禁じているのに」
糸さんの独り言のような呟きに
「鋏様の導きじゃないっすか?」
と適当に返答したが、彼女は
「そうですね」
と納得したように目を細めた。
既にブレザー姿の糸さん。
巫女姿(ママさんの趣味らしい)時の緩い雰囲気とは違い、今は委員長のような厳格な印象を受ける。
下ろした状態の、肩まである黒髪が色っぽい。
「蜜さんの髪綺麗です。膝裏まである長さで……これは私が女性と勘違いしても仕方が無い」
免罪符が欲しいのだろうか。
「まぁ一度も切った事無いですからね。美容院とか連れてかれた事も無いし、今更だし」
周囲の見る目とかどうでもいいし(ハゲは嫌だけど)。
「……。お望みなら、帰った後に切ってあげますよ」
「お願いします」
と小さく頭を下げ、顔を上げると、どうしてか糸さんは眉根を寄せていて、まるで決意を込めたそうな表情で。
「私が、断ち切ってあげますので」
もう一度、そう予告した。
二回言わんでも分かるのに。




